注意

このお話は、社長が、リヴリー界のどこかにあるだろう、マダムの館に捕らわれている
という設定を元に書いています。
完全な監禁ネタではありませんが、社長に首枷とか手枷とかつけてますので・・・
そういうのが苦手な方は、迷わずブラウザ×を押しましょう。
まぁ、でも捕らわれて結構時間が経っているお話なので、どちらかというとラブラブっぽいです。



+救い+






 ――――目が、覚めた。
 無意識に伸ばした腕の先に、あるべき姿がない。
 微かに残る温もりから、出て行ってそう時間が経っていないことがわかる。

 きっと彼は仕事へ行った。
 それが彼の使命であり、避けられない事だから――――
 俺と違い、全てを受け入れているから――――




 細い朝の光が、カーテンの隙間から室内に一筋の線を描いている。
 今日は、暖かく穏やかな一日になるだろう。

 ベッドから起き上がり、まどろむ頭を左右に振って目覚めさせる。
 小さな欠伸が漏れたとき、彼は帰ってきた。

 まだ寝ていると思っているのか、ゆっくり静かに扉は開けられる。
 そして、起きている俺の姿を確認すると、彼は笑った。


―――目が覚めていたのか」
「おはよう・・・」


 一仕事を終えてきたとは思えない、普段と変わらない姿の彼。
 それが、彼の強さを表し、また俺に安心を与える。

 彼は、俺の首に嵌められた重く冷たい枷を外し、口唇に触れるだけのキスを落とす。


「用意が出来たら降りて来い。食事が出来ている」


 以前と比べて、随分と自由に館を歩き回らせてもらえるようになった。
 彼が俺を信用したのか、それとも逃がさない余裕があるのか・・・
 それはわからないが、俺自身も以前と比べて涙を流さなくなったと思う。

 やはり、それだけ目の前の存在が大きいのだろう――――


「・・・どうした?」


 じっと彼の姿を見ていたらしい。
 問われて、ふと我に返る。


「いや、なんでもない。用意が出来たら行くから・・・」
「あぁ。待っている」


 そう言って、彼は部屋を出て行った。
 残された俺は、ベッドの下に落とされたままの服を掴み腕を通す。

 ―――こうやって服を着るときに思い出すのは、仕事へ行く前のことだった。
 腕を通した服が重く、辛く、1時間ごとの仕事に堪らない嫌悪感と罪悪感を感じていた。
 今は―――・・・

 ネクタイを絞め、先ほどまで首につけられていた枷をベッドの上に置き、部屋を出た。










 1階の広間では、様々な料理が並べられている。
 既に彼は、扉から遠く離れたイスに座っていた。


「グリフ。こっちだ」


 彼に呼ばれるまま促された席に座り、空の皿が食べ物で埋まっていくのをただ眺めている。
 一礼して使用人が去ると、部屋には俺と彼だけが残された。

 静かな時の中で、静かに食事は進められる。
 別に重苦しく感じない、無音だが何故か安らげる時間

 ――――置かれた柱時計が、ある時を知らせるまでは・・・


「・・・時間か」


 そう、呟く彼に、俺はどこか胸を締め付けられる思いになる。


「そう苦しそうな顔をするな。罪が重なるのは私であって、お前ではない」
「しかし・・・」


 この先の言葉はつむぐ事が出来ない。
 自分は彼に罪を負わせて、逃げているに過ぎないから・・・

 黙り込んだ俺の心情を察してか、彼は俺を見据えて言う。


「・・・最近、疲れているのではないか? 顔色もあまり良くない」


 確かに、時々当時の夢に苛まれ、夜中に目を覚ます事はあったが。


「仕事を終えたら、外へ行こう。お前に見せたいものがある」
「・・・外?」
「そうだ。気分転換にもいいだろう」


 そういえば、外へはどれくらい行っていなかっただろうか・・・


「ずっと部屋に閉じ込めてしまったからな・・・」


 珍しく申し訳なさそうな表情を浮かべる彼に対し、俺は首を横に振る。


「俺はお前の行為を憎んではいない」
――そうか」


 どこか安心したような顔をし、彼は席を立った。


「ゆっくり食べるといい。その後は、部屋で待っていてくれ」


 止められないことはわかっている。
 目を伏せ、静かに頷く俺を見て、彼は言葉を続けた。


「・・・お前を信用しないわけではないが、念のため部下を一人つけさせてもらう。まぁ、お前の力をもってすれば、
 いてもいなくても同じだがな」


 彼と並んで力があるだけに、部下一人程度ではいなくても同然の事だ。
 それをわかってでも部下をつけるのは、俺を一人にしないためだろう。
 一人にすれば、また涙を流すと思っているから・・・










 彼の後姿を見送り、俺は早々に食事を終わらせる。
 広間から出ると、扉の前に一人の女官が立っていた。


「ローズウッド様より、グリフォン様のお世話を申し遣わされております」


 黄緑色の髪を揺らし、深々と頭を下げた彼女こそ、彼が言っていた部下の事なのだろう。
 まさか女性を置いていくとは思わなかったが・・・


「お部屋へどうぞ」


 少々驚いて立ち尽くして俺に、階段の方へ手を伸ばして先を促す。
 そのまま2階へあがり、彼が用意した自室へ戻ると、彼女は遠慮がちに細い枷を差し出した。
 首ではなく、片腕につける物のようだが・・・


「お付けしてもよろしいでしょうか」
「ウッドからの命令か?」
「・・・はい」


 黙って利き腕とは逆の腕を差し出すと、彼女はとても緩くそれを留めた。


「申し訳ございません」
「いや、構わない」


 彼女は優しく微笑み、立ったままの俺を部屋に置かれているソファへ導く。


「ベッドメイキングをさせていただきます」


 軽く礼をして、彼女はベランダへ通じる窓のカーテンを開ける。
 一筋の線を描いていた日の光は、一気に部屋へ入り込み、全体を眩しいほど明るく照らした。
 思わず目を細めた俺の横で、彼女は手馴れた手つきでベッドを直していく。






―――君は、ウッドに仕えて長いのか?」


 ベッドメイクを終え、紅茶を手に戻ってきた彼女に問う。
 カップに注がれていくお茶から目を離さず、彼女は頷いた。


「はい。もう随分と長く、ウッド様のお世話をさせていただいております」
「彼をどう思う?」


 聞いてはいけない事だったのかもしれない。
 一瞬、戸惑いの表情を見せた彼女は、やや俯きながら答えた。


「私がウッド様の事を語るなど、恐れ多いことでございます」
「それでも、何か思っている事は事実だろう。そうでなければ、仕える事など出来ない」


 俺の視線から逃れるように彼女はカップを置き、小さく呟く。


「ウッド様は気高くお綺麗で、そしてとても強い方でございます。私は、あの方に仕える事が出来てとても幸せです」
「・・・そうか」


 注がれたままだったカップを手に取り、紅茶を一口含む。
 身体を温めるこの紅茶の他に、何故か安心している自分がいた。


「あの・・・お一つよろしいでしょうか」


 俯いていた彼女は、遠慮がちにこちらを向いた。


――なんだ?」


 カップを置き、彼女の視線を受け止める。
 しかし再び戸惑ったのように、彼女は視線を外した。


「遠慮しなくていい。言ってくれ」
「・・・はい。あの・・・」


 今度は意を決したのか、強い瞳がこちらを向く。


「ウッド様がグリフォン様に行った行為を、憎まないでください。あの方は表には見せませんが、グリフォン様への想いと
 グリフォン様へなされた行為との間で、いつも苦しんでおられるのです」
「ウッドが・・・苦しむ?」
「はい。本当は、グリフォン様をご自分の身勝手で閉じ込めておきたくなどない。しかしそれは貴方様を守るため・・・
 いや、それは誰の目にも触れさせたくないという我儘の言い訳に過ぎないのではないか・・・」


 初めて聞くウッドの想いに、思わず目を見開く。


「罪の意識から救ってやるなど、己の欲望を満たすための戯言ではないか・・・」
「それは・・・違う」
「グリフォン様?」
「俺は、閉じ込められた事への行為など憎んでもいないし、苦しいと感じたこともない。ウッドがいなければ・・・俺は――――


 責務に苛まれ、弱すぎた自分
 日々重く積み重なっていく罪から救い出してくれたのは、他でもない彼だ。


「どうやら自分のことばかりで、ウッドのことをしっかりと見ていなかったようだな・・・」
「私が言える立場ではないのはわかっておりますが、グリフォン様。ウッド様を、宜しくお願い致します・・・」


 彼女は、目を閉じ、深く頭を下げた――――










 窓の日は、緩やかな午後の光を差し入れている。
 彼が戻ってこないところ見ると、数回連戦で相手をしているのだろう。

 ――――何事もなければ・・・

 不意に浮かんできた考えを、頭を振って消し去る。
 彼の身に何か起こる事など、ほとんどありえない。

 暖かな日に身を任せていると、ゆっくりと部屋の扉が開かれた――――


「随分と長く戦っていたんだな・・・」


 身体を起こし、立っている彼を出迎える。
 彼は、笑った。


「まぁ、なかなか有意義な時間だったがな」


 その表情に、疲れの影はないが・・・


「それよりグリフ。出かけるぞ」
「出かける? 帰ってきたばかりで大丈夫なのか?」
「何を言う。私がこの程度で倒れるとでも思っているのか?」


 さもおかしげに笑う彼は、本当に大丈夫なのかもしれない。
 だが―――


「あまり無理はしないでくれ」
「お前がそこまで心配するのなら、今後連戦は少し控えよう。今は本当に大丈夫だ」


 あまりしつこく言っても仕方がないのはわかっている。
 黙って頷いた俺を見て、彼は俺につけられていた手枷を外した。


「時間がたくさんあるというわけではない。行くぞ、グリフ」
「行くって、どこへだ?」


 腕を引かれるまま尋ねた問いは、彼の笑みで消えた。
 いつになく楽しげな笑みを浮かべているという事は、彼にとっても大切な場所なんだろう。










 ―――やがて、屋敷を出て数分
 空が薄っすらと夕焼けに染まった頃

 たどり着いた場所は、一面赤の世界だった―――




―――ここは?」
「素晴らしい場所だろう。私も気に入っている」


 目に入る限り、そこは真っ赤な花で埋め尽くされている。
 夕闇がかった空は、花の色を反映してか、より赤く焼けて見えた。

 時折吹き去る風が、赤の花びらを舞い上がらせ、甘い香りを運んでくる。
 いつもの世界と隔絶されたような不思議なこの赤い空間は、侵入者を拒むことなく温かに受け入れて くれた。


「この花は夕暮れにならないと咲かないらしい・・・太陽の赤い光を吸収しているのかもしれないな」
「いつも来ているのか?」
「時間が合う時だけだが・・・私がここへ他人を連れて来たのは、お前が初めてだ」


 赤に佇み、彼は前を見据えて言う。


「ここは、私にとって聖域のような場所。他の者になど踏み入れられたくない・・・」
「何故、俺を連れてきた?」


 花から視線を外し、こちらを見て彼は楽しそうに笑った。


「・・・ウッド?」


 眉を顰め、笑いの意図を追う俺に彼は小さく鼻で笑うと、再び前を見据えた。


―――他でもない、お前だから連れてきた」


 風のざわめきと共に、彼の声は流れていく。
 その言葉は、いつも俺に安らぎと苦しみを与えるというのに―――

 逃れるように足元の花に視線を落とす。
 俺をわかっているから、彼は言葉を続ける。


「グリフ、私の言葉を素直に受け止めろ。お前が苦しむ事はない」
「だが、その事でウッド・・・お前が苦しんでいるんじゃないか?」
「苦しむ、か・・・確かに苦しいのかもしれない。でも私は涙を流さない。何故だかわかるか?」


 顔を上げ、緑の髪を赤く染めた彼の横顔を見つめる。


「私にはお前がいる。苦しみは、全てお前が拭い去ってくれる―――
「・・・俺はそんなにお前に影響を与えているんだろうか」
「私は充分与えられているつもりだがな・・・」


 静かに笑い、彼は花の中に1歩踏み出した。


「もう少し先へ行くぞ」


 俺も黙って、彼の後に続いた――――






 下から吹き上げる風は、前髪を撫で、花を散らし、空へ吸い込まれるように抜けていく。
 静かな・・・静かな時が、ゆっくりと流れていた。




―――グリフ」


 背後からやや遠慮がちにかけられた声に、気付きながらも正面を見据え続ける。

 彼は恐らくわかっているだろう―――
 俺が声に気付いている事に
 だからあえて、2度は声をかけてこない。

 真っ赤に熟れた花々の中に立ち尽くし、赤く染まった空を見上げる。


――俺は、いつまでお前に迷惑をかけるのだろう」


 ポツリ、呟く言葉は風のざわめきに消える。
 再び、彼の声が聞こえた。


「そろそろ戻るぞ―――


 彼が近づいてくる。
 踏み入れられた痕跡で花は舞い、風によって遠くへ運ばれていく。


「俺は・・・―――
「戻るぞ、グリフ」


 真後ろから声が聞こえ、彼は俺の肩を抱いた。
 そこから引き剥がすように強くではなく、ただそっと促すように優しく―――

 だから、一歩踏み出した。
 それでも舞い上がる花の中、もう一度振り返り空を見上げる。


―――俺は、いつまで逃げ続けるのだろう」


 彼は強い、それはわかっている。
 それでも彼を苦しめているのは事実だろう。

 自分ひとり、なぜ受け入れられないのか――
 なぜ、こうも弱いのか――

 罪は贖い切れないとわかっているのに、なぜ現実から目を逸らすのか―――


「私がお前を愛し続ける限り、お前はその思いに捕らわれ続ける」


 答えは、いつも彼がくれる。
 逃げ続けることさえも、彼は許してくれるから・・・

 だから俺は笑うことができるのかもしれない。


「なら、まだ当分は逃げ続けるしかなさそうだな・・・」


 ―――――彼も静かに笑った。










 今日、何度目かの仕事へ行く彼を見送り、再び閉ざされた部屋へこもる。
 彼の思いをわかっているから、俺は黙って首に枷をつけられた。
 見えない絆では不安だから、彼は目に見える現実を求めてくる。
 それでも少し苦しそうな声で謝罪の言葉を聞けば、彼から逃れるという思いは消え去る。






 外はすっかり暗くなり、さらに透き通った空に小さな星が瞬いている。
 ベッドの横に並ぶ大きな窓を開け、ベランダへ出た俺は、何となく夜空を見上げていた。

 電気の消えた室内では、月の光だけが部屋を照らす。
 サイドテーブルの上には、先ほど彼が連れて行ってくれた花畑に咲いていた、赤く熟れた花が2輪
 月光はこの花の赤さえも奪い、蒼銀に部屋を染めていく。

 もうしばらくすれば、彼は帰ってくるだろう。
 手すりに凭れかかり、静かに目を閉じる。

 風の音以外、何も聞こえない――――










――そんな場所で眠っては、身体に良くないな」


 ふ―っと、現実に引き戻される。
 見慣れた顔は、間近で俺を見下ろしていた。


「いつから外にいた。こんなに身体が冷えているではないか」


 そのまま無言で彼を見つめていると、彼は風から遮るように俺の身体を抱いた。
 その温かさに縋るよう、黙ってその行為を受ける。


「目は覚めているんだろう?」
「・・・あぁ」


 心地よさは身体に広がり、再び目を閉じる。


「何を考えている?」


 甘えているように見えるのが、彼にとって珍しいのだろう。
 抱く腕の強さはそのままに、静かな声が降ってきた。


―――今日、昼に女官から話を聞いた。俺を捕らえる行為で、お前自身が苦しんでいると。だが、俺はそれに
 気付かなかった。いつも自分のことばかりで・・・余計にお前を苦しめていたんだな」


 目を開き、彼から少し身体を離して向き合う。
 少し開いた距離に、冷たい夜風が通り抜けていく。


「俺はお前のように強くなれない。俺の存在がお前を救うと言ったが、己の責務からも逃げ、お前に甘えるまま日々を過ごす俺は、
 お前を救えるほど強い存在ではない―――
「それは、本気で言っているのか?」


 不意に腕を強く掴まれ、部屋の中へ引き戻される。
 開け放たれた窓から靡くカーテンをくぐり、ベッドの横へ立ち尽くす俺を前に、彼は自らの足を地面 につけ跪いていた。

 俺を見据える瞳は鋭く、これが冗談ではないことを示している。


「ウッド・・・」
「わかるか? 私はお前の言うように強くなどない。確かにお前をこの場所へ連れてきた時は、自分のした行為に嫌悪した。
 抑えきれない欲望に適当な理由をつけてお前を巻き込んだ、と」


 苦しそうに顔を歪め、歯を噛みしめる彼の表情から、その苦しみが痛いほど流れ込んでくる。
 再び彼は俺を見上げると、静かに笑った。


「なのにお前は、私を憎むことなく傍にいる。お前を攫い、監禁したというのに・・・その罪を許し笑みをくれた。
 ・・・私を跪かせることが出来るのはお前だけだ、グリフ。その存在に、今も救われている――


 そっと手を取り、彼は甲にキスを落とす。
 どこか儀式めいたその行為を、何故かひどく儚く感じた―――・・・


「もう・・・立ってくれ」


 自身も跪き、引き上げるように彼を立たせる。
 再び見下ろされた俺に、彼は優しくキスをした。


「私はお前に涙を流させてばかりのようだな・・・」


 口唇は目元へ移り、息を呑む俺の口元へとまた下りてくる。


「愛している、グリフ。お前の存在がなければ、私にとって全てが無意味なものになっていただろう」


 それは、俺も同じかもしれない―――
 言いかけた言葉は重ねられた口唇の奥に消えていく。

 ただあとは、素直に彼を求めればいい―――・・・










 不安を消すために彼に安心を求めるのか
 縋るように泣きつく俺は、滑稽なのかもしれない


「・・・ウ・・ッド・・・・」


 切れ切れながらに声を漏らす俺を見て
 彼はいつも優しげな笑みをくれる

 あやす様にキスをして
 ゆっくりと髪を撫でられて

 そして安心する俺に、彼はまた笑顔をくれるのだ






 肌に直接感じる温もりに、俺の意識は沈みそうになる。
 横抱きにされたまま、どのくらいの時が流れただろうか・・・
 目を閉じ、眠りに身を任せていた時、声は静かに聞こえてきた―――


「私はお前を独占しすぎか?」


 俺の身体を抱く彼の腕に、少し力がこもる。
 独り言に近い小さな声は、もう俺が眠っていると思っているのかもしれない。


「この手の届く場所にお前を置いておきたいが、いつかは手放さなければならなくなるのか・・・」


 俺の存在が彼を苦しみから救うと言ったが、こんなに傍にいる今も彼は苦しんでいる。
 俺が彼から離れたら、彼はどうなるのだろう―――・・・

 考えたくもなかった。
 だから、目を閉じたまま俺は言う。


「俺はお前の傍にいよう。お前が俺を罪の苦しみから救うというのなら、俺はお前の傍でお前の苦しみを救う・・・
 それで、いいじゃないか・・・」


 彼が一言、何か言ったかもしれないが
 その後の記憶は残っていない――――










 ――――瞼の裏に薄暗い光を感じる。

 もうすぐ朝が来るのだろう。
 隣で微かに動く気配を感じ、俺は静かに目を開けた。


「・・・行くのか?」


 見上げた視線に、彼は軽く頷いた。


「起こして悪かった」
「いや・・・気をつけて、くれ・・・」


 言ってから、自分自身何か不自然さを感じた。
 以前は行くなと、泣いていたのに・・・

 彼もそれに気付いていたと思う。
 だが、何も言わなかった。


「まだ朝まで時間がある。もう一眠りするといいだろう」


 服に腕を通し、彼は去り際に振り返る。
 俺を見て、いつものように笑みを浮かべて。


「行ってくる」


 パタン――と、扉は閉められた。



 戦う事が避けられないのならば、せめて彼の身を思おう。
 彼が戻ってきた時に、泣くことなく受け止めるために・・・

 温もりだけを残していったベッドに腕を投げ出し、俺はもう一度瞳を閉じた―――――・・・




 Fin.







なんかもう・・・長くてすいません。
私の妄想、すべて吐き出した感じです・・・

えっと、今作は、モンスター小説2作目になります。
でも1作目は、捧げ物になったので、このHPでは1作目になりますね。

以前のトップアンケートで、モンスター小説を増やして欲しいという希望があったので。
一応、ちょろっとやってみたのですが・・・
よかったのかな・・・なんか激しく後悔しそうなんだけど・・・

と、とりあえず!
ちょっとギリギリな場面もありましたが、少しでも皆様の心に何か情を与える事が出来たら
それ以上に嬉しい事はありません。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!
以下、静稀の無謀なお願い実施中・・・
無謀なお願いを聞いてくださる方は、コチラへ・・・

読み終わった方は、ブラウザ×で閉じてくださいねー

2006.2.15 静稀