+ちょっとした食事+



 それはある時、フェンリがユーラの島に行った時のお話





「・・・フェンリ、ちょっといいですか?」
「な〜に〜・・・?」


 フカフカの羽根の島でゴロゴロと寝転がっているフェンリは、顔もあげずに返事をする
 ユーラはといえば、フェンリを呼んでおいて、読んでいる雑誌から目を離そうとしない


「前から気になっていたんですけど」
「ん〜?」


 間延びした声
 今にも眠りそうなフェンリの声を聞きながら、ユーラは唐突に質問する


「フェンリはご飯を食べる時、いつもケマリの時につけているおしゃぶりは、どうしているんです?」
「・・・へ?」


 もぞもぞと起き上がり、そういえば・・・とフェンリは腕を組んで悩み始めた
 どうやら自分でも無意識らしく、わかっていないらしい


「・・・どうしてたっけ。外してる記憶はないんだけどなぁ」
「そうですか。なら、試してみましょう」


 どこかワクワクした表情のユーラはパタン、と雑誌を閉ると残しておいたケセパを取り出す


「じゃあフェンリ、ケマリに戻ってください」
「あ、待って! 兄さんにケマリの姿のまま、ご飯は食べちゃダメだ! って言われてるんだよ」
「ほぅ・・・私の食事が食べられない、と」


 余計な事を・・・と、心の中で思いながらも、ユーラはそれはもう極上の笑みで微笑む
 そんな笑顔に、フェンリはその場でビシッと固まった


「ひどいですねぇフェンリは。ヴィオはいつも文句なく食べてくれるというのに・・・」
「あ・・いや・・・そうじゃなくて・・兄さんが・・・」
「フェンリは静稀のお願いは聞くのに、私のお願いは聞いてくれないんですね」
「あぅー・・・でも・・・うぅ・・・」


 言葉を詰まらせるフェンリに、ユーラの視線は容赦しない
 じっと見つめられ、フェンリは自然と後ずさる


「わ・・わかった! おいら、兄さんに聞いてくるよ!! それで、OKだったらまた戻ってくるからさ!」
「静稀がダメと言っているのに、彼がOK出すわけないでしょう?」
「そうかも、しれないけど・・・やっぱりおいら聞いてくる!!」


 ユーラの返事も待たずに、フェンリは元の姿に戻ると一目散に飛んでいった



 そんな小さな後姿を見送りながら、ユーラは微笑する

 そう、この時間に静稀はいない
 いなければ、この島に戻ってくるしかないのだ


「・・・さて、と。フェンリが戻ってくる前に、ちゃんとした食事の用意でもしておきましょうか」


 フェンリを誘惑するものくらい、簡単にわかる
 ユーラはとあるパークへの呪文を解き放つと、その姿は一瞬にして消えさった











「ユラー! ただい・・・」


 突如空中に現われた小さなケマリは、眼下に広がるお菓子を見て思わず声を失う
 空中で止まっているフェンリに気付き、ユーラはそっと手を伸ばした


「おかえりなさい、フェンリ」


 ユーラに抱かれてフェンリは、お菓子の一つ、美味しそうなクッキーの上にそっと座らされる


「ど・・どうしたの!? このお菓子!!」
「フェンリはお菓子が大好きでしょう? だから、フェンリのために用意したんですよ」
「おいらの・・・ため!?」
「えぇ。そうですよ」


 確かに大好きなお菓子がこんなに島いっぱいに広がってるのも嬉しいが
 それよりも、あのユーラが自分のために用意してくれた、というのが信じられない


「それはそうと、静稀はいましたか?」


 目の前のお菓子に心を奪われているフェンリは、ユーラの質問で一瞬我に返る


「あ・・兄さん、いなかった・・・」
「そうですか。それでフェンリはどうするんですか?」


 案の定、静稀はまだ仕事で帰ってきていない
 この先は全て、フェンリの意志に委ねられるわけだが・・・


「食べて・・・平気だよね??」
「フェンリが食べたいと思うなら、別にかまわないと思いますよ」
「うん・・・兄さんも、ちゃんと説明すれば・・わかってくれる・・・はず・・・」


 こくり、と小さな喉を鳴らし、フェンリはそうっと飛んで、キャンディの前に止まる
 静稀の恐さも、ユーラの思惑も、今のフェンリは忘れてしまっている


「どうぞ、好きなだけ食べてください。もちろん、ケマリのままで・・・ですよ」


 にっこりと笑うユーラの前で、フェンリは大きく頷いた


「うん! いっただっきまぁ〜す!!!」


 羽を器用に動かし、いざ目の前に転がるキャンディを掴んだ・・・途端
 フェンリの身体がその場から掻き消えた

 一瞬驚いたユーラだったが・・・
 原因はわかっている


「・・・保護者登場ですか」


 やれやれ、と大げさにため息を吐き、ユーラは風の呪文を唱えお菓子を消した








 一方、強制送還で島に戻されたフェンリは・・・



「・・・フェンリ」
「ひどいよ兄さん!! 今、ユーラのところでお菓子食べようと思ってたのにぃー!!」
「ヒト、でか?」
「ううん。ケマリで」


 そう答えて、はっとするフェンリに対して、静稀は安堵の息を漏らす
 島にフェンリが居ないのを見て、いつもなら放っておくのだが、今日はなんか嫌な予感がした

 感を信じフェンリを呼び戻して正解だったらしい


「いつも言ってるよな、フェンリ。ケマリのままご飯を食べるのは、俺の前だけにしろ、と」
「うっ・・・だってぇ・・・」
「言い訳は聞かない。お前はしばらくホテル行きだな」
「えーーーーーーー!」


 ホテルの暮らしはいい
 だが、外に出れないのだ
 友達に会えない、ということがフェンリにはどんなお仕置きよりも辛い


「大体、何でケマリでご飯食べちゃいけないのさー! 兄さん、ちゃんと説明してよ!!」
「全ケマリの飼い主の夢を壊さないためだ」
「・・・はぃ?」
「謎は、謎のままのほうがいい。その答えがわかってしまったら、それは価値のないものになってしまうからな」
「難しいよぅ・・・」


 ぶぅ、と口を膨らませるフェンリの頭をポンポンと撫でると、静稀はそのままフェンリを摘みホテルへと運ぶ
 宿泊の手続きをし、ブツブツ文句を言うフェンリを預けて、静稀はついでにユーラの島を訪れた





「・・・フェンリはお仕置きですか?」
「あぁ。どこかの誰かが、余計な詮索をしようとしたからな」
「ちょっと気になっただけですよ。謎はいつか解き明かされる・・・そう思いませんか?」
「知る時がくれば・・・な。今はまだ早い」
「手厳しいですね。でも、まぁ今回の事は私にも責任がありますから・・・なるべく早くフェンリを引き取ってあげてくださいね」


 いつもの調子でにこりと笑う小さな住人に、静稀は軽く頷く


「戻ってきたら、また歓迎してやってくれ。『ヒト』でな」
「・・・はいはい。したたかな主人とは違い、フェンリは大切な友人ですから。ちゃんと歓迎しますよ」
「ユーラ・・・」


 違いました? と笑うユーラに、さすがの静稀も嘆息する


「ま、よろしく頼むわ・・・」


 ユーラの胸毛を軽く一撫でして去って行った静稀の後姿を見ながら、ユーラはもう一度にっこりと笑った





ちょっとしたお題第1段でした
ここからちょっと、『擬人化リヴリーにいろいろお題』を使わせてもらいながら
書いていこうと思います!

というわけで、お題その1『食事』をお送りしましたが・・・
黒い!! ユーラが黒いよ!!
本当は、こんなに黒くするつもりはなかったんですが・・・なっちゃった。
フェンリの飼い主である静稀(私のことですが)とも、同等に渡り合えるリヴリー・・・
でも、そんなユーラが好きです!

この話で、ユーラの人気さがったら、どうしましょう。
てか、ユーラよりフェンリのほうが人気ありそうだけど・・・

その前に、これお題をちゃんとクリアしてるのか!?
一応、食事・・・というか、フェンリのおしゃぶりが主のお話なんだけど。
だって気になりません!? ケマリのおしゃぶり・・・
どうして食べれるんだ!!
そんな疑問から生まれたんですけどね・・・この話。

ま、謎は謎のままのほうが、妄想も広がるので、そのままわからず・・・にしてみました。
さて、次のお題『秘密』もお楽しみに!
がんばりまーす。


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