+ちょっとした愛情話+



「それじゃあ兄さん。ちょいとユーラのところにご飯届けに行ってくる!」
「わかった。気をつけろよ」


 飼い主静稀に手を振り、フェンリはパタパタと空を飛ぶ
 1日2回、フェンリデリバリーサービスをユーラとヴィオルにしているため
 時間になると、彼らの島に行かなくてはならない

 時間通りに行かないと怒るし・・・

 まずはフェンリの島であるユエから近いユーラの島を目指す
 星空の背景は暗くて、フェンリにはちょっと見えづらいのだが
 その星空に浮かぶ真っ白な羽根の島は、羨ましいほどフワフワしていて気持ちがいい


「ユーラさ〜ん! おっ届けにあっがりましたー!」


 突如、島に飛び込んできたケマリを横目に、ユーラは島に置いてある時計を見る


「・・・3分遅刻ですね。フェンリ」


 それはもうにっこりと微笑まれ、フェンリは思わず空中で急ブレーキする


「えっと・・・あの・・その・・・・あぅ〜・・・」


 降りるに降りられず、言い訳も思い浮かばないフェンリは、空中でユーラを見つめたまま全身の毛を尖らせている
 そんなフェンリを、ヒトになったユーラは手でそっと包み、島の羽毛の上に置いた


「そんなに身体を強張らせないでください。怒ってませんよ」
「・・・ホント?」
「えぇ。本当です」


 羽の根元を指で撫でられ、フェンリはくすぐったさに身を捩りながら笑う


「よかったー! んじゃ、早速ご飯だすね」


 至極単純なフェンリを、なんだか微笑ましく思う
 フェンリを優しく見つめるユーラの横で、まずはポン!っとヒト型になり、フェンリはマリモ帽子の中にゴソゴソと手を突っ込んだ


「えーっと。ユーラ用のご飯は・・・コレとコレ。2匹でどう?」
「ちょっと待ってくださいね」


 フェンリの出したご飯をつまみながら、ユーラは満腹度を確認する


「・・・あと1匹ですね」
「はーい」


 ポトン、と転がった最後の1匹を口に放り込み、ユーラは満足そうに頷いた


「ご馳走様でした。フェンリも、配達ごくろうさま」
「いえいえ〜 んじゃ、あとは夜だね。これからヴィオルのとこ行ってくる!」
「あぁ、ヴィオへの配達が終わったら、もう一度島に寄って下さい。渡したいものがありますから」
「へ? あ、うん。わかったー!」


 ぽふん、とケマリに戻ると、フェンリは小さい羽を懸命に動かしながら、全速力で消えていった






 そして、数分後


「ユ〜ラ〜!」


 またもにぎやかに飛び込んできたフェンリを見て、ユーラは読んでいた本を閉じる


「おかえりなさい。フェンリ」
「たっだいまぁー!」


 その場で空中前方三回転をしながら、フェンリは『ヒト』の呪文を唱える
 小さな身体がクルクル回りながら光に包まれ、やがてケマリはヒトへ変化し・・・
 最後の回転から着地に入ろうと足を伸ばした瞬間!


「決まっ・・・・ぶへっ」
「お決まりですね」


 島の羽根に足を滑らせたのか・・・
 フェンリは頭から羽根に突っ込み、なにやら宙に浮いた足をバタつかせている


「大丈夫ですか?」


 助ける気など更々ないのか、時折バタつき、時折静かになるフェンリを、ユーラはただ見下ろしている
 ・・・やがて、フェンリの動きが完全に止まったところで、ユーラはポツリと呪文を放った

 どこからか吹き荒れる風はフェンリと周りの白い羽根を巻き込み、大きな竜巻となって島の上をグルグルと回る


「あーーーーーれぇーーーーーーーー・・・・・」
「楽しそうですねぇ」


 必死でモコモコ帽子を押さえながら、嵐が吹き止むのを耐えるフェンリは、傍から見ると本当に楽しそうに見える


「・・・酔いそう」
「それじゃあ、島から追い出しますか」
「しくしく・・・・」
「口で泣いても、効果ないですよ」


 竜巻が静まってから、フェンリはフラフラと島の上に転がった
 お気に入りの帽子は飛ばさないようにしっかりと握っていたらしい
 より目深にかぶっているため、フェンリの表情は見えないが・・・


「フェンリ。生きてます?」
「・・・なんとか」


 絞りだしたような声ではあるが、ちゃんと返ってきた声にユーラはにっこりと微笑む


「うー・・・ぷはぁ!」


 小さな身体から大きな息を吐いて、フェンリはその場にピョンと飛び起きた


「フェンリ、復活!」
「それはよかったです」


 竜巻を仕掛けたのはユーラであるというのに、彼は何事もなかったかのように笑みを崩さない
 フェンリにとっては、すでに慣れていることだが


「で、おいらに用ってなに?」
「そうそう。これを渡そうと思いまして・・・」


 改めて、島に座ったフェンリにユーラは50ddを手渡す


「ご飯代です。静稀に渡してくださいね」
「別にいいのに。おいらが好きでやってることだし・・・」
「50ddくらい平気です。ヴィオと違って、私は少しは持っていますからね」


 その言葉に、フェンリは軽く首を傾げる


「ねぇねぇ、ユーラ。ヴィオルって、そんなにお金ないの?」
「ヴィオの飼い主であるスズカゼっているでしょう? 彼がヴィオを飼い始めてすぐにGLLに入ってしまったから、
 一気にお金を使ってしまったみたいですよ」
「あ〜GLLって色々なものがあるから、すぐお金なくなっちゃうんだよねぇ〜」
「フェンリも随分色々なものを静稀に強請ったみたいですからね」
「いやぁ〜・・だって・・・なんか見てたら、あれもこれも欲しくなっちゃったんだもん」


 ユーラから受け取った50ddを大事そうに帽子の中にしまいこみ、フェンリは立っているユーラの腕を引っ張る


「ユーラも座って座って!」
「・・・ここは私の島なんですけどねぇ」


 にっかり笑うフェンリに苦笑しながら、ユーラはフェンリの隣に座る
 それを待ってました!とばかりにフェンリは、ユーラのひざの上に飛び乗った


「ユラユラー」
「まったく、いつまで経っても子供ですね・・・」
「まぁまぁ。ところでさ、話戻るけど・・・ヴィオルは貧乏なんだよね」
「貧乏・・・まぁ、そうですね」


 なんかフェンリの言い方に、ヴィオルを不憫に思いながらもユーラは頷く


「じゃあさ、ヴィオルがお金必要な時とかって、ユーラがあげてるの?」
「・・・質問がヘンですよ、フェンリ」
「え、そう? いやだってさぁ〜ヴィオルとユーラって、結構一緒にいるし・・・おいらがどっちかの島行った時いないと、
 大概もう一人の島にいるもん」
「拗ねてるんですか?」
「別に・・・でも、おいらだけ仲間はずれにしてずるいよ」


 口を膨らまし、ぶすっとするフェンリを後ろから抱きしめ、ヨシヨシと頭を撫でてやる


「フェンリは・・・私たちがお互いの島で何をしていると思っているんですか?」
「楽しい事、じゃないの?」


 一瞬、ユーラの頭の中で、ある種楽しい事が思い浮かんだが・・・
 首を後ろに捻って見上げてくるフェンリを見て、ユーラはまた笑みを浮かべる


「楽しいことなんかしませんよ。私たちがしているのは、戦闘訓練です」
「・・・戦闘訓練!?」
「えぇ。主にヴィオが・・・ですけど」
「な〜んだ! ちっとも面白くないじゃん!」
「そうでしょう。私も、もっと楽しい事をしたいんですけどね」


 ユーラの笑顔の奥にある言葉の意味を、フェンリは理解していない
 いや、理解できなくて当たり前だからこそ、ユーラはわざと言っているのだが
 ここにヴィオルがいたら、きっとユーラを睨む


「やっぱり、ユーラもヴィオルのこと大好きなんだね!」
「そうですね。大好きですよ」
「おいらも大好き! ユーラはちょーっと恐いし意地悪だけど優しいし、ヴィオルは頼れる兄ちゃんだし!」
「フェンリ。恐いと意地悪は余計ですよ」


 それはもうにっこりと微笑まれ、フェンリは瞬時に身体を硬直させ顔を強張らせる


「フェンリはいい子ですから、ちゃんともう一度言えますよね」
「えと・・んと・・・ユーラは・・とても綺麗で優しくて頭よくて・・・」
「それから?」
「えーあー・・・おいらのこと可愛がってくれて、なんていうか自慢の友人で・・・」
「なるほど」
「もうホントおいら幸せ者! ユーラにずっとついて行きます」
「・・・ま、いいでしょう」


 何か見えない糸がちょん切れたかのように、フェンリは一気に溜まっていた息を吐き出す


「なんかおいら・・・すーっごい疲れたかも・・・」
「お疲れなら、帰ります?」
「うぅー・・・あ、そだ。じゃあ最後に1つ!」


 フェンリはのそのそとユーラのひざから降りると、彼の目の前にビシッ!と1本指を立てた


「ユーラは、ヴィオルのどういうところが好き?」
「・・・唐突ですね」
「だってーおいらはさっき、ヴィオルは頼れる兄ちゃんだから好きって言ったけどさ。
 ユーラとヴィオルってそんなに年かわらなそうだし・・・」
「確かに年はそんなに変わりませんが・・・なんか改めてどこが好きと聞かれると困りますねぇ」


 珍しく困っているユーラを見て、フェンリは笑顔になる
 ユーラはしばらく無言で俯いていたが、やがて顔をあげるとフェンリを見てにっこり笑った


「私は、彼の全てが愛しいですね。私の事をよく考えてくれ、お願いは何でも聞いて下さいますし・・・文句も言わない。
 そうそう、いつも無表情ですけど、時々見せる表情が可愛いんですよ」
「・・・なんかユーラさ。ヴィオルのこと・・・・」
「なんです?」


 言おうとした言葉をユーラの笑顔に気圧され、フェンリは思わず飲み込む


「いや・・本当に・・・好きなんだなぁ〜と・・・・」
「えぇ。大好きです」


 ユーラにとって、ヴィオルは扱いやすい下僕・・・なのでは・・・・
 心の中に浮かんだ雑念を頭を振って払い落とし、フェンリは悟られないよう少し距離をとる


「フェンリ、貴方の考えていることくらい、わかりますよ」
「げっ・・・」


 冷や汗を流し、わたわたと視線を泳がせるフェンリ
 ユーラがそうっと近づくと、フェンリは気配に気付き、すぐさまケマリへと戻る


「お・・おいら帰る! じゃあまたね!!」


 言い終わるが早いか、フェンリは全速力でお空の彼方に飛んでいった


「・・・逃げられてしまいましたか」


 苦笑しながらも楽しそうに、ユーラはフェンリが飛んでいった方向を見つめていた







 無事、自分の島にたどり着いたフェンリは、ゼハゼハと荒く息をしている
 久しぶりに自分の限界スピードで飛んだため、かなり疲れた

 そんな様子を怪訝そうに見つめるムシクイ3兄弟を無視して、フェンリはごろんと転がる


「あー・・・やっぱりユーラって最強最恐だ・・・ヴィオルご愁傷様・・・」


 白銀のムシチョウ、ヴィオルの姿を思い浮かべ、哀れみを感じながら
 フェンリはゆっくりと目を閉じた





ちょっとしたシリーズ第4段でした
ユーラはやっぱり最強ということで・・・

この3人は、非常に書きやすいですね。
たぶん、それぞれ全然違う性格だから、区別がつきやすいんだと思うんですけど
一番難しいのは、やっぱり感情出さないヴィオル。
意外と純粋で可愛かったりする・・・彼は。

さて、これで各2組と3人全員が終わりました。
次回のちょっとしたシリーズはどうしよう。
なんか書きたくなったら、書くことにしましょう。

お題とかに挑戦してみてもいいかな・・・
では、また次回・・・?


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