+ちょっとした内緒話+



「はいはーい。どうも〜フェンリデリバリーサービスで〜す!! ぐぇっ・・・」


 なんとなく空を見上げた瞬間、頭の上に小さなケマリが降ってきた
 ヴィオルのつんつんした髪の上で一度ぽよんと跳ね、そのまま島の上をコロコロと転がる


「・・・大丈夫か?」


 そのまま島の外まで転がっていきそうなフェンリをつまみあげ、島に生えている木の根元に置いてやる
 転がりすぎて目を回したのか、フェンリは意味のないうめき声をあげたまま動かない


「フェンリ?」
「あーあーあー・・・・うーぅ? あーうーおー」
「ふむ・・・」


 頭クルクルのフェンリを前に、ヴィオルは軽く呪文を唱える
 力強く発した言葉の後、空中に巨大ハンマーが現われ・・・

 ・・・ボコン


「・・・いってぇぇぇえええーーーーーーーー!!」
「気がついたか」
「気がついた・・・って・・・・ひどいよヴィオル! もっと他にやさしーくていねーいな介護の仕方ってあるだろぉ!!」
「例えば?」
「例えば・・・・ハートとか」
「お前は俺の投げキッスが欲しいのか?」


 真顔で問われ、フェンリは一瞬想像して・・・
 フルフルと首を振った


「・・・いりません」
「だろ。それより、早くメシをよこせ。お腹が空いた」
「へ〜いへい」


 よっ!と思いきり立ち上がり、フェンリはなにやらゴソゴソと羽を動かす


「・・・あれ?」
「あれ、じゃなくて。お前もヒトになればいいじゃないか。わざわざケマリのまま探すのも大変だろう」
「あ、そっか」


 モゴモゴと呪文を唱え、フェンリはポンっとヒトに変身する
 だぼだぼのピエロちっくな洋服に身を包んだヒト型フェンリは、手を腰に当て胸を張ってポーズをとった


「フェンリ様、と〜うじょ〜!」
「いいから、メシだせ。メシ!」
「うー・・・いいじゃん、ちょっとくらいカッコつけさせてくれてもさ」


 ぶつぶつ言いながらも、深々とかぶっている帽子の中に手を突っ込み、ヴィオル用のご飯を取り出す


「えーと、コレとコレとコレ。どう、3匹くらいで満腹になる?」


 フェンリの出すご飯をまとめて口に放り込み、ヴィオルは軽く頷いた


「こいつは腹が張るからな。3匹で丁度いい」
「よーし! じゃ、また夜・・・と言いたいところなんだけど」
「どうした?」
「ヴィオル暇? おいら、ちょーっと暇してるんだよねぇ〜 お話とかしない?」
「ユーラにその事は言わなかったのか?」
「言ったよ! 言ったけど・・・にーっこり笑顔で『私はフェンリほど暇ではありませんから』って言われた」
「・・・そうか。この時間は大体読書時間だからな、あいつ」
「むぅ。おいらより本の方が大切なのか・・・傷ついた」


 木を背に、しょぼくれて座り込むフェンリ
 仕方なくヴィオルもその横に座り込む


「そんなに拗ねるな。少しだけなら付き合ってやる」
「ホント? わーい!!」


 さっきとは打って変わって目を輝かせるフェンリに、ヴィオルは苦笑しながらモコモコ帽子をぽんぽんと叩いた


「あのさー・・・前から聞きたかったんだけどぉー」
「ん?」
「ヴィオルとユーラって、なんか仲いいじゃん。おいらさぁ、正直ユーラって恐いんだよ! ヴィオルは恐くないの?」


 あまりにも唐突すぎる話題に、思わずフェンリを見て・・・悩む


「いや・・・恐くは・・ないが・・・・」


 頭の隅で、あたかもそこにいるかのようにユーラが笑っている


「うん。恐くはないが、あいつには逆らえない」
「ヴィオルでも逆らえないの?」
「あぁ。絶対にムリだ! あいつに逆らえる奴がいたら見てみたいと思う」
「そっかぁ〜 ヴィオルならユーラと対等に話が出来るのかと思ってた。おいらはただでさえ恐いのに、逆らうなんて・・・」


 なにか思い当たる節があるのか、フェンリは小さな身体をプルプルと震わせる


「でもフェンリは、ユーラのこと嫌いな訳ではないんだろ?」
「嫌いなんてとんでもない! おいら、ユーラのこと大好きだよ!! 恐いけど・・・優しいし、色々教えてくれるし・・・」
「そうか」


 まぁ嫌いではないと思っていたが、フェンリからはっきり好きと聞けて、少し安心した
 よしよし、と頭を撫でると、今度はフェンリが見上げてくる


「ヴィオルは? ヴィオルもユーラのこと好きなんだよね?」
「ぁ・・・っと・・・」


 好き? と問われて言葉詰まる
 『好き』は『好き』だが、その『好き』が若干フェンリとは異なる
 本人を目の前にしたら絶対に言えない言葉だけに、本人がいなくても言葉に出すのが難しく、恥ずかしい

 なかなか答えないヴィオルに心配になったのか、フェンリが顔を覗き込んでくる


「・・・嫌いなの?」
「あ・・いや・・・好き、だけどな・・・・」


 ほぼ絞りだしたに近い言葉だったが、フェンリは満面の笑みを浮かべている


「よかったぁ〜! もしヴィオルがユーラのこと嫌いって言ったらどうしようかと思った」
「嫌いって言ってたら、フェンリはどうした?」
「そしたらもちろん! 絶対ヴィオルがユーラを好きになるよう、おいらが頑張る!!」
「・・・お前は何事にも一生懸命だな」
「ダメ・・・かな?」
「いや、いいんじゃないか」


 ぽふぽふと頭を軽く叩いてやると、フェンリは照れたように笑う


「さってと、おいらそろそろ帰る! 付き合ってくれてありがとな!!」
「そうだ。今日話したことは、ユーラには秘密にしておけよ」
「そうだよね・・・恐い! なんてユーラに言ったら、また怒られちゃうし・・・内緒話だね」


 そういう訳ではないのだが、ヘタに言ってもフェンリを混乱させるだけなので何も言わない


「それと、帰るならケマリに戻るように。あとは余所見してモンスターに食われないようにな」
「わかってるよぉー!」


 ポン!っとフェンリはケマリに戻ると、小さな羽をパタパタ動かして空に舞う


「じゃ〜ねぇ〜! また夜、ご飯届けにきまーす!!」
「よろしく」






 フェンリの姿が消えたのを確認し、ヴィオルは軽くため息を吐く

 恐いと言ったことが心配な訳ではない
 本当に心配なのは、好きと言ったこと
 フェンリにとっては、大した意味もない友達としての『好き』と捉えたと思うが
 だからこそ、ユーラに『ヴィオルがユーラのこと好きって言ってたよ』なんて言われたら


「・・・絶対、あとが恐いな」


 あの笑顔は、そう簡単に逃れられるものではない
 なんとなく不安を感じながら、ヴィオルはフェンリの島の方を見つめた


「頼むから、言うな・・・フェンリ」





ちょっとしたシリーズ第3段

今回は、フェンリとヴィオルのお二人
ユーラについて語ってもらいました。

フェンリはユーラのことを恋愛感情とかなく好きなんですけど・・・
ヴィオルは違いますからね。

これでフェンリが、ヴィオルが好きって言ってた!って言ってしまったら・・・
きっとユーラはヴィオルに、にーっこり笑って『私の事、好きなんですってね』
と、言うはずです
何かあるごとに、『好きなんでしょう?』とか言うのはお決まりです。

次回のちょっとしたシリーズは、じゃあフェンリとユーラにしましょうか。
ヴィオルについて語ってもらおう。
今回のって、ほのかな女性向け・・・?


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