+ちょっとした関係+



「・・・静かだな」
「そうですね・・・」


 最近、『嵐を呼ぶケマリ』ことフェンリの姿を見ていない
 おそらく、飼い主の都合でホテル暮らしをしているのだろうが・・・
 からかう相手がいなくてつまらないのか、ユーラはあからさまにため息を吐いた

 ユーラの島、威流
 星空を背景に鳥の羽根で出来た島は、どうも地に足をつけている感覚が無く不安定
 足元をくすぐる羽根に顔を顰めながら、ヴィオルは羽根の中に埋もれて座っているユーラを見る


「お前は、そんなにフェンリが好きなのか?」
「・・・どうしてです?」


 なんとなく尋ねたのににっこりと返され、ヴィオルは言葉に詰まる


「・・・いや、別に」
「好きですよ。退屈しませんから」


 小さく笑って答えるユーラに、その相手がフェンリだと思っていても、なんか少しモヤモヤするらしい
 微かにふーんと呟いてその場に座り込む
 そんなヴィオルに気づいたのか、ユーラは笑みを絶やさず彼の傍へ近づく


「どうしました?」
「・・・何でもない」
「嫉妬ですか? フェンリに」


 視線をそらすヴィオルを追うように、確信的な笑みを浮かべた


「お前のそういう所は嫌いだ」
「そうですか。困りましたねぇ・・・性格っていうのは、なかなか直せないものなんですよ」
「直す気もないだろ」


 ヴィオルの言葉はユーラの笑顔で消える
 ため息を吐いて立ち上がるヴィオルに、ちょっとは反省したのか、ユーラも立ち上がり腕を絡めてくる


「私は好きですけどね・・・」
「・・・何が?」
「貴方の、その性格です」
「性格・・・ね」


 あまり興味はない、といった感じのヴィオル
 いつもの事だから、特にユーラは気に留めていないらしい
 そのままヴィオルへと凭れかかっている

 そんなユーラの細腰を引き寄せ、ヴィオルは呪文を唱え始めた


「アジト行くんですか?」


 軽く頷いて、ヴィオルは『アジトの鍵』の呪文を解き放つ
 どこからかポロリと落ちてきた金の鍵を受け取り、何も無い空間に鍵を差し込む
 ガチリと回すと、空間はドアに変わりアジトへの道を開いた


「ヴィオは顔に出さない割には、意外と積極的ですよね」
「・・・何を勘違いしているのかわからないが」


 アジトの空間に入ったのを確認し、ヴィオルは扉を閉める
 空間の切れ目は元に戻り、同じアジトへの道は閉ざされた

 ユーラから身体を離し一定の距離を取ると、ヴィオルは腰の剣を抜いて彼を見据える


「さて、戦闘訓練だ」
「そういうことですか・・・つまらないですね」


 思惑と違うことがわかり、あからさまにユーラはため息を吐く


「何を言う。フェンリがいない今、雷を使えるのはお前だけだ。俺はまだレベルがたりない」
「それはそうですけど・・・あぁ、さっき言ったこと怒ってるんですか?」


 ヴィオルは表情をあまり表に出さないため、ユーラでも時々何を考えているかわからない時がある

 ポン!と手を打ったユーラを前に、ヴィオルは首を捻る


「怒る?」
「えぇ。貴方の性格が好きと言った事です」
「・・・いや。別に怒ってはいない。それに好きと言われて怒る奴もいないだろう」
「なら、戦闘訓練など今は必要ないでしょう?」


 ユーラの言いたい事は充分にわかる
 笑顔の奥に否と言わせないオーラを感じ、渋々ながら剣を納めた


「こっちへ来い」


 アジトに置かれている大きな植木鉢に生えている草に、ヴィオルはゆっくりと背を預ける
 言われるままついて来たユーラを引き寄せ、一本に結ばれた長い青紫の髪に手を通し、
 ヴィオルは彼の口唇にそっと触れるだけのキスをした

 そのままユーラを抱きしめ、ヴィオルは嬉しそうな笑みを浮かべている彼を見て嘆息する


「フェンリがいないといつもコレだな。お陰で戦闘訓練が出来ない」
「いいじゃないですか。フェンリがいる時はお預けなんですし、こんなゆっくり出来る時間もありませんよ」
「そうやって屁理屈をいうお前に逆らえないのも、俺の甘さなんだろうな」
「屁理屈とは失礼ですねぇ。私は本当の事を述べただけです。それに・・・・」
「・・・それに?」


 不意に言葉を切ったユーラを覗き込むように見るヴィオルに、今度は彼から口唇を合わせる


「私は貴方の性格以外に、貴方のその『甘さ』も大好きなんです」
「それは、褒め言葉なのか?」
「そのつもりですけど」


 見かけ上は天使の笑みなのに、中身は真っ黒の彼には逆らえない

 いつになったら戦闘訓練が出来るのか・・・
 そんな事を考えながら、ヴィオルはユーラを強く抱きしめた





ちょっとしたシリーズ第2段
はい、女性向けです。苦手な方、ごめんなさい。

我が家のヴィオとユラはカップルさんです。お色気担当ですからね・・・彼ら
しつこくない程度の甘さにしたのですが、結構バカっぷるになってしまいました。
大人を目指したはずなんだけどなぁ・・・

いつも悲恋系ばかり書いているので、甘いのは慣れていないのです(言い訳
しかも女性向けは、かなり久しぶりなのです(さらに言い訳
まぁ、でもこれでフェンリが加わると、全然違う雰囲気になります。

そういえば、女性向けの世界に入って、もう8年にもなるんだなぁ・・・と
年とるもんですね・・・はぁ
今度はヴィオとフェンリで、ユラについて語ってもらおうかと思ってます。
ちょっとしたシリーズ第3段もお楽しみに!?


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