+ちょっとした誕生日 〜フェンリ編〜+





 時は12月18日
 そう、今日はフェンリのリヴ歳でいう2歳の誕生日である

 朝っぱらから飼い主の静稀に羽毛の島をもらい、フェンリの顔はだらしなく緩みまくっていた


「へへへ〜・・・」


 ふかふかの羽毛の島の上
 羽根の中にもぐりこみ、その温かさを実感しながら、フェンリは誰にでもなくにへら〜と笑っている


「おいら、幸せだなぁ〜・・・」


 時々、コロコロと転がってみたり、羽毛を掴んでは空に放り投げて遊んでみたり・・・
 これ以上にない幸せをかみ締めながら、どこかへ行くわけでもなく一人誕生日を過ごしていた。

 と、そこへ―――


「お。いたいた」


 低い音と共に降りてきたのは、以前ヴィオルの島で出会ったあの男
 フェンリの幸せは、ここで終わる


「な・・なななな・・・なんでおいらの島知ってるの!?」


 ずざざざっと後ずさり、フェンリは先ほどとはうって変わって、恐怖に引き締まった顔でヴィネガを見る
 足に絡まる羽毛をうざったそうに蹴飛ばし、大きく伸びをしながら彼は言う


「ヴィオルに聞いた」
「・・・ヴィオルのばかー!」


 突如大声でヴィオルを罵倒するフェンリに対し、意地悪い笑みを浮かべ彼はフェンリに近づく


「ほぉ〜・・・お前は俺様が島に来てはいけないと。そう言うわけだな?」


 ギラリと光る赤く鋭い左目
 フェンリは帽子を両手で強く握りながら、身体を出来るだけ小さく丸めて震えている


「いい度胸してるじゃねぇーか。えぇ? ガキ!」
「ごごご・・ごめ・・ごめ・・なさい・・・食べないでえぇぇー!!」


 悲鳴を越えるフェンリの叫び声
 予想外の大きさに耳を押さえながら、さすがのヴィネガも度が過ぎたと大きく息を吐く


「冗談だよ、じょーだん! てめぇなんか食わないし、それに今日はお前を怯えさせるために来たわけじゃねぇ」
「・・・ほぇ?」


 それでもやはり怖いのか、身体を丸めたまま、帽子の影からチラっと涙で濡れたドングリ眼をヴィネガに向ける


「今日はお前の誕生日なんだろ? だから、祝いにきてやったんだよ」


 思ってもみなかったその言葉に、丸まってた身体を今度は大きく広げ、飛び上がってヴィネガを見上げた


「お祝い・・・? 本当に!?」
「あぁ。前にお前をちょーっと虐め過ぎたしな。あの後ヴィオルに怒られて参ったぜ」


 ヴィネガが言っているのは、たぶん初めてフェンリが彼と会った時の事だろう
 確かにあの時も虐められたが・・・


「なんか今も虐められたような気がする・・・」
「何か言ったか? ガキ」
「いいい・・いえ! 何も言ってません!!」


 びしっと立ったまま固まるフェンリを見て、さも楽しそうにヴィネガは笑う


「よし。ってわけで、これが侘びと祝いの意味を含めたプレゼントだ」


 どん!と島のど真ん中に置かれたのは、どこから出したのか大きなレンガの家
 入り口は縦長で小さな窓までついているが、その大きさは家のサイズと比べてフェンリサイズに小さい


「ほ・・本当にくれるの!?」
「おぅ。俺様じゃあ入らねぇ」


 確かに、ヴィネガのように身体のでかい奴では、この小さな家に入ることすらできない


「お前サイズで丁度いいだろ?」
「わぁ〜・・・ありがとぉーーーーーーー!!」


 さっそくケマリの姿に戻り、パタパタと低空飛行でフェンリは家の中に入る
 しっかりとした作りのレンガの家は隙間風など入らず、とっても温かい


「すごいあったかいよ、この家!」


 窓から顔を出し、フェンリは覗いているヴィネガに笑顔を贈る


「そりゃあよかった」


 と、なにやら不敵な笑みを浮かべたヴィネガは、不意に呪文を唱え始める


「へ・・? え・・・? まさか・・その呪文って・・・・」


 ニヤリと笑ったあと、力強く唱えられたのは焚き木の呪文
 どこからか飛んできた火の点いた木は、レンガの家の中に放り込まれる


「フェンリ焼きは美味くないぃぃー!!」


 小さな身体をさらにちぢこまりの呪文で小さくし、フェンリは焼き栗の如く窓から勢い良く飛び出した


「ククク・・・最高の誕生日だな」
「最高じゃないー!! 何が悲しくて、誕生日に焦げなきゃいけなんだよぉー」


 少しチリチリした毛を身震いで払い落としながら、フェンリは涙目を向ける


「焼き鳥、だな。誕生日に美味いものは必須だ」
「おいらの誕生日だぁー!!」
「てことは、俺の誕生日にはいいってことか」
「・・・意地悪」


 もう怒鳴る気にもなれないのか、フェンリはしょぼんとレンガの家の上に座り込む


「まぁ、そうしょげるな。お前のそういう反応が虐めたくなるんだよ」
「ぶー」
「ガキ」
「ガキだもん」


 参ったとばかり、苦笑しながらもヴィネガはフェンリを後ろから頭の上まで持ち上げる
 不覚にもケマリ姿のためフェンリは彼の手のひらにすっぽりと納まっているが・・・
 思わぬ身体の上昇に、無意識に手足をバタつかせていた


「ぎゃーぎゃー!」
「暴れると落とすぞ」


 途端、ぴたっと動きが止まり、身体を捻ってヴィネガを見下ろす姿は、少し怯えも入っていた


「おめでとう」
「ふぇ?」
「だーかーら! おめでとうっつってんだろ!」
「あ・・ありがとうございます!!」
「よし」


 今度は逆に急降下する身体
 羽を羽ばたかせることも忘れて、フェンリは羽毛の上にコロンと転がった

 転がった姿のまま起き上がることもなく見つめてくるフェンリに、いつもの意地悪そうな笑みを浮かべ、ヴィネガは言う


「また遊んでやるよ」


 そのまま立ち去る彼を、フェンリは何故か黙って見据えていた






 島に誰もいなくなって、数分経った頃
 ようやく転がったままの姿から、よいしょと起き上がったフェンリは思う


「・・・なんか、怖い人なのか優しい人なのかわからないや」


 目の隅には、彼のくれたレンガの家が建っている


「意地悪だけど・・・怖いけど・・・いい人、なのかな」


 ヒトの姿になりピョンと家の上に座って、フェンリは誰にでもなくにっこり笑う


「ビックリしたけど、こういう誕生日もいいってもんだね!」


 だがこの時フェンリは、次のイベントで、ヴィネガが残した最後の言葉の通り、再び遊ばれる事になるのをまだ知らない――――――

 笑っていられるのは、今のうちだけ




はい、およそ1ヶ月以上遅れましたが・・・
フェンリの誕生日小説をお送りしました。

やっぱり大好きなヴィネガ様とフェンリの絡み!
この二人の絡みは、本当に大好きです。
ヴィネガ様は怖いけど、フェンリとだと、なんかほのぼのしますねー

ちなみに、次のイベントっていうのは、クリスマスのことです。
クリスマス小説でも、ヴィネガとフェンリの絡みを書きましたが・・・
それより時間的には前の出来事ってことになります。
なぜなら、フェンリの誕生日が12月18日だから!

またこの二人で、何か書きたいですねぇ〜
でも次は、ユーラの誕生日。
ユーラときたら、やっぱりヴィオルとの絡みで!

少しずつ更新していきます!




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