+ちょっとしたクリスマス+





 粉雪舞い散る冬の夜
 吐き出した息は白く、真っ黒な空に浮かんでは消える


「・・・ざぶい」


 いつもより目深に帽子を被り、空を見上げていたフェンリは、身震いしながら歩を進めていた

 向かう場所は1つ
 みんなの待つティータイム公園だ

 何もこんな寒い夜に、外でパーティをしなくても! というフェンリの抗議の声はユーラの笑顔にかき消された
 ほんっとーに渋々ながら承諾したフェンリは、完全防備をして待ち合わせ場所に向かう途中だった

 肌身のケマリより、ヒトになって歩いた方が温かいと思い、ヒトの姿でテクテクと向かっているのだが・・・
 やっぱり寒いらしく、小さな身体がさらに小さく縮こまっている


「早くお茶飲みたいなぁ・・・」


 小さな手にはぁ〜・・・っと息を吹きかけ、フェンリは小走りに先を急いだ
 ――その時


「チビが縮こまると、さらにチビだな」
「ぐぇっ」


 いきなり服の襟元をぐいっと引っ張られ、宙ぶらりん状態になったフェンリは、真後ろからの声に身を凍らせた

 くるりんと器用に反転させられ、自分を釣る男を見て、さらに息を呑む


「こ・・ここここ・・・こんばんわ!!」
「お前なぁ、いい加減その反応何とかならないのかよ」
「さささ・・寒さの所為ですぅぅ!!」
「はいはい」


 赤く鋭い目を光らせ、長い歯を突き出したヴィネガは、くくっと低く笑う


「どこへ向かう予定だったんだ?」
「あ・・えと、ユーラとヴィオルが待ってるティータイム公園だけど・・・」
「ヴィオル? ・・・お前、騙されてんぞ」
「ほぇ?」


 彼ら二人の名前を聞いたヴィネガは、顔を顰めてフェンリに言う
 一方、いきなりそんなことを言われて、状況が読めないフェンリは、吊るされたまま首を傾げた


「あいつらは、ティータイム公園になんかこねぇよ」
「なんで?」
「さっきヴィオルに会った。ムクチョウと一緒だったが・・・それがユーラって奴だろ?」
「あ、うん。ユーラはムクチョウだけど・・・」
「じゃ、確実にこねぇな。そのうち、紙飛行機でも届くんじゃねぇか?」


 そうヴィネガが言った途端、夜空の彼方から紙飛行機がフェンリの元に届く
 それは彼が言ったとおり、ユーラからのもので・・・


「・・・ホントだ。急用だって書いてある」
「急用ねぇ〜」


 その用事を知っているのか、ヴィネガは苦笑している


「なんだ・・・パーティはなしかぁ〜 おいら寒い中きたのになー」


 拗ねたような寂しげな声を出し、フェンリはぷぅっと口を膨らました


「どうせこの後はヒマなんだろ。なら俺様と過ごさないか?」
「ふぇっ!?」


 膨らました頬が縮み、今度は身体全体で驚きを表現する


「何もそんなに驚くな。って、あぁ・・・恐いか?」
「え・・いや・・・恐いのは少し慣れたけど・・・でもでも! なにするつもりなの!?」
「それはぁ・・・秘密だ」


 にやりと笑うヴィネガに、フェンリの顔が引きつる


「どうする?」
「ど・・どうするもなにも・・・」


 自分の置かれている状況では、逃げる事も出来ない
 なんせ、ずっと吊られたままなのだから・・・


「わかった。お願いします!」
「よし。今までで最高のクリスマスにしてやるよ」


 ぶんっと身体が振られ、ポスンと肩の上に乗せられる
 一瞬目を回したフェンリだったが、初めての肩車に少し照れたように笑った


「まずは俺様の島に行くぞ。いいな?」
「おぅ!」









 ヴィネガの島についたフェンリは、肩の上から下ろされる
 もっと毒々しい島を想像していたが、そこは意外なほどシンプルで、どこかヴィオルの島と似ていた


「どうした?」


 キョロキョロと辺りを見回しているフェンリに、ヴィネガは頭上から声をかける


「いや、あのさぁ・・・なんかヴィネガ様の家なのにシンプルだなーと思って」
「そうか? お前、どんなところを想像してたんだよ」
「もっとこぅ・・・オドロオドロしい場所」


 正直に悪びれず答えるフェンリには、さすがのヴィネガも怒れず笑うしかない


「まぁいい。それよりせっかくのクリスマスだ。少し豪華にいこうじゃないか」
「何をするの?」


 テコテコと寄ってきたフェンリの姿を見ながら、ヴィネガは暗闇の呪文を解き放つ

 ――一瞬にして真っ暗になった島
 互いの姿と空に浮かぶ月星以外、何も見えるものはない


「ど・・どうするんの!?」
「こうすんだよ」


 続いて解き放った呪文は、スター
 キラキラとした小さな星々が、真っ暗な空から降り注ぐ


「そんで、お前はこの星に向かってコールドブレスしろ」
「ほぇ?」
「はーやーく!」
「はっ・・はい!!」


 なんだかわからないが、とにかくフェンリはヴィネガの言うままに星に向かってコールドブレスを吹き放つ
 寒い日に更なる冷たい息で、星は綺麗に凍りつき、その輝きはさらに七色に光り始めた


「うわぁ〜・・・綺麗だぁー!」
「おぃ、次はこれだ」


 どこから出してきたのか、ヴィネガの手にはワインの瓶が2本


「おいらお酒なんか飲めないよ!?」
「んなのわかってんだよ。お前のはブドウジュース。俺のがワイン」


 ドンっと島に置き、再びどこからか取り出したワイングラスに、それぞれ注いでいく


「いいかぁ〜ガキ。コレはなぁ・・・特別なブドウを使ったジュースだ。味わって飲めよ」
「特別なブドウ?」
「あぁ。とても貴重なブドウだ」


 なんか一瞬、ヴィネガの目がギラリと輝いたように見えたが・・・
 気付かないフリをして、フェンリはグラスに注がれたジュースを一口飲んだ

 甘く、そして濃厚なブドウの味が口いっぱいに広がる


「美味しい!」
「それはよかった。っと、あとはこれだな」
「わー! チキンだー!!」


 どこかヴィネガに不釣合いなその品々
 それでも用意してあるというのが、フェンリにはとても嬉しく感じた


「たくさん食え。俺は食わねぇから」
「へ? なんで??」
「焼きは好きじゃねぇ。食うなら血が滴るような新鮮な生肉がいい」
「ひぃっ!」


 一瞬気を許しかけたヴィネガの今の一言に、再びフェンリは身体を強張らせる
 予測していたのか、ヴィネガはそんな反応を示すフェンリを見て、大きな声で笑った


「冗談だ、冗談! そんなビビるな」
「だだだ・・だってー!! ヴィネガ様がそういうと、冗談に聞こえないんだもん!!」
「てか、お前なぁ。何で様付けなんだ?」
「何となく様付けにしなきゃいけないようなオーラを感じてるから・・・だけど」
「何だそれ」


 再び笑い声をあげるヴィネガに、フェンリも少し笑顔になる


「なんかーおいら勘違いしてたかも」
「あぁ?」
「ヴィネガ様って、見た目恐いし、近寄れない感じだけど・・・実はガサツで、気のいいあんちゃんなんだね!」
「・・・それ、褒めてんのか貶してんのかわからねぇーぞ」
「一応褒めてるつもり・・・おいら的に」


 チキンをかぶりつきつつ、フェンリはにっかりと笑った


「ま、今日はクリスマスだから許してやるか。まだまだ食い物あるからな、遠慮なく食っていけ」
「ひゃっほぅ!」


 今年はいつもと違うヒトとのクリスマスだったが、フェンリは変わらず楽しげな笑顔を浮かべていた――



 一方、ユーラとヴィオルの方はというと・・・
 彼らも彼らなりにクリスマスを満喫したようだ

 これはまた、別のお話・・・




えっと、かなり急いで仕上げたクリスマス小説です。
やっぱりイベントには参加しなきゃね!

今回は珍しい組み合わせで書きたかったので、この二人になりました。
というのは、以前のヴィネガ様だと、かなり恐ろしい方になってしまっていたので・・・
これじゃあいかん!ってことで、ちょっと気のいい兄ちゃんにしてみました。

がっ!
ちゃんと噂の吸血鬼っぽいのはご健在のようで・・・
あのワインは、ワインに見せかけた血ではないかと、私は心の中で思っていたりします。

ちなみに、特別なブドウってのがありましたが・・・
あれはね、前にオリジナル小説を書いた時に作り出した・・・
その名も「ブラッディ・グレープ」
これです。
血のように赤く濃厚なブドウ、です。

そんなわけで、皆さんもよいクリスマスを〜
ユラヴィオ編のクリスマスは、気が乗ったらやります。
ラブラブになって終わりそうだから、やらないかもです・・・



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