+ちょっとした歓迎パーティ+



「嵐が・・・戻ってくる」


 見上げた空は真っ青
 嵐などまるっきり来そうもないのに
 彼、ヴィオルは呟いた。








「ユーラ、嵐が来るぞ」


 グリンの丘を駆け下り、GLL城下町たどり着いたヴィオルは
 そこで見慣れた後姿に声をかける。


「嵐・・・ですか」


 ホオベニムクチョウ、ユーラはやれやれと空を見上げる。

 そこはやはり澄んだ青空
 どうしても嵐が来るとは思えない。


「いつ、来る予定ですか?」
「もうすぐ」
「そうですか。なら、お茶を用意しておきましょうね」


 にこりと笑い、ユーラはスタスタとティータイム公園に向かう。


「・・・歓迎するのか」
「しないと、泣いてしまいますから」


 つられて歩きだしたヴィオルに、ユーラはまたニコリと笑う。


「乗せていってくれません? 短い足では歩くのが大変なんです」
「別に構わないが、振り落とされないようにな」
「大丈夫ですよ。荒い運転したら、嘴で注意しますから」
「・・・・・・」


 ムシチョウ、ヴィオルは無言でユーラのシッポを咥えると、ひょいと背中に乗せる。

「ティータイムの何色だ?」
「そうですねぇ・・・では、黒で」
「了解」


 GLL城の裏、誰が用意するのか紅茶とクッキーのあるティータイム公園に向けて
 ヴィオルはゆっくりと走り出した。









「お茶の用意も歓迎の用意も終わりましたけど。連絡はしてあるんですか?」
「あぁ、紙飛行機を飛ばしてある。もうそろそろだと・・・」


 ヴィオルが言い終わる前に、あたりに一陣の風が吹く。
 そして・・・・



「たあぁぁだいまあああああぁぁぁーーーーーーーーー!」



 嵐が吹き荒れた。


 風に乗って勢いよく飛び込んできたケマリを、ヴィオルがシッポで叩き、ユーラが嘴でキャッチする。

 ぺっ、とテーブルの上に吐かれた小さなケマリモはコロコロ転がりカップにコツンとぶつかった。


「うー・・・ひどいじゃんか二人とも! せっかくこのフェンリ様が帰ってきてやったのにー!」
「いえ、あのままですとココを通り過ぎて怪物の森へ行ってしまうと思いましたから」
「止めてやらなきゃ、お前はクモにペロリだったぞ」


 やたらでかい二人に見下ろされ、フェンリは何か言いたそうな口を閉じた。


「さてフェンリが戻ってきたことを祝して、お茶にしましょうか」
「お茶って・・・このままで? おいらカップの中に沈んじゃうよ」
「ヒトになるに決まってるだろ。ずっとマリモの姿していたから忘れたか?」
「マリモって言うな! 確かに緑だけど、おいらはケマリだぃ!」
「ケマリモ、ですね」
「・・・もう、何とでも言えぃ」


 逆らえない、逆らえないのだ。この二人には・・・
 特にユーラには、どんなことがあっても逆らえない。
 コレに関してはヴィオルも同じらしい。


「では、ヒトになりましょうね。/human ですよ。覚えてますか? フェンリ」
「もちろん! じゃ、おいらから発動! えぃ」


 −−ポチョン


 フェンリの身体が小さな光に包まれ大きくなると、静かに弾けた。


「うひゃ〜 この姿、すーっごい久しぶりー!」


 マリモカラーの服をパタパタさせ、黄色のクツでパタパタと走り回る。
 頭からすっぽりとかぶったモコモコのマリモ帽子は、ヘタするとズルリと顔まで落ちそうなほど、少し大きめ。


「やっぱおいらって、可愛くない?」
「自分で言うな」


 いつの間にヒトになったのか、白銀のツンツンした短い髪、フサフサのしっぽ、金に光る目をもつヴィオルがフェンリを見下ろす。


「ヴィオルってさ、ヒトになってもでかいよな」
「マリモと違うからな」
「フェンリもたくさん食べれば大きくなれますよ」


 振り返った先には、薄い青紫の長い髪を頭の上で束ね、髪より青いしっぽ、緑の瞳をしたユーラが立っていた。
 いつも思うのは、あのモコモコムックリの姿がどうしてこんなに細くなるのか、ということ。


「相変わらず、女と間違えるほど綺麗だよねぇ・・・ユーラって」
「悪ガキとぶっきらぼうな青年だけでは華がないでしょう」


 悪ガキってなんだよー と怒るフェンリを無視して、ユーラは長い爪を器用に操りカップに紅茶を注ぐ。


「ぶっきらぼうにしているつもりはないんだけどな」


 唐突なヴィオルの言葉に、ユーラは手を休めずにっこりと笑う。


「でも、ヴィオルには他を寄せ付けないオーラがありますから」
「あー確かに。ヴィオルが睨めば、絶対クモでも逃げてくよ」
「ふむ・・・」


 納得したのかそうでないのかわからないが、ヴィオルは神妙に頷くとイスに座りクッキーをかじった。
 それを見てフェンリもどかっと座り、クッキーに手を伸ばす。


「あ、ユーラ。おいらのはミルクたーっぷりでお願いね」
「わかってますよ。ヴィオルはブラックでしたね」
「あぁ」


 ティータイム公園に、芳醇な紅茶の香りが漂いはじめる。


「では、パーティ。始めましょうか」


 ユーラの声を合図に、3人だけのフェンリ歓迎パーティが始まった。












 それぞれの話に盛り上がり、クッキーもなくなってきた頃
 空はすっかり真っ暗になっていた。

 一筋の星が流れては、静かに消えていく。
 満点の星空を眺めながら、フェンリは大きく伸びをした。


「んーーっと・・・そろそろ静稀兄さんが帰ってくる時間だ」
「もうそんな時間ですか」
「兄さん、島においらがいないと心配するからねぇ〜」
「フェンリが寂しいだけじゃないか?」
「ちがっ・・・」
「そういえば、フェンリの島にはムシクイが3匹もいますからね」
「あれは兄さんが置いていったんで、おいらが頼んだわけじゃないし、正直ジャマだし・・・」
「では静稀にムシクイを外すよう、言っておきましょう」
「えっ! あ・・・別に・・・・・いいもん・・・」


 明らかにしょぼくれたフェンリに、ユーラはクスクスと笑う。
 その辺にしておけ、と言うヴィオルも少し笑っていた。


「さて、では後片付けをして、それぞれの島へ戻りましょうか」
「フェンリ! 元の姿に戻るの忘れるなよ」
「元の姿って・・・・?」
「/shadow だろ。ヒトのままだと、ここから帰るの大変だぞ」
「ヴィオルに乗せてもらうってのは、ダメ?」
「却下」
「ちぇっ・・・」


 渋々ながらも、ポンとケマリに戻るフェンリ
 後片付けを終えたユーラも元の姿に戻るが、その視線はじっとヴィオルを見ている。
 その視線に深くため息を吐いてから、ヴィオルは背中にユーラを乗せた。


「あー! ユーラずるぃー!!」
「フェンリにはツバサがあるでしょう。私はツバサはあっても飛べませんから」
「むぅ〜・・・飛ぶのだって疲れるんだぃ!」
「定員オーバーだ」


 ちょこんと乗ろうとしたフェンリをすかさず嘴で挟み、ヴィオルはポイっと投げ捨てる。


「けちーーーー!」
「いいから飛べ。置いてくぞ」
「頑張ってくださいね、フェンリ」


 ユーラのにこやかな笑顔を置いて、ヴィオルはさっさと走り出す。


「あー! 待ってよぉ〜!!」


 小さなツバサを広げ、フェンリも夜空に羽ばたいた。








 そして、それぞれの島への分岐地点


「また遊んでくれるよな?」
「もちろんですよ。フェンリがちゃんと私たちを迎えにくれば・・・ですけどね」
「エサも届けるように」
「全く・・・ケマリ使いが荒いんだからなぁ〜」


 そう文句を言うフェンリの顔は、なぜか笑顔だった。


「では、また明日」
「じゃーな」
「ば〜いば〜い!」






 それぞれが島へ向かい、フェンリはユエにつく。


「たっだいま〜」
「遅い。何してた?」
「うわっ! 兄さん、今日はちょいとインが早いんじゃない? いつもはもっと遅いくせに」
「何してたんだ、フェンリ」


 飼い主静稀の顔を見上げ、フェンリはてへへと笑う。


「んと、ユーラとヴィオルとパーティしてた。ほら、おいらさ、兄さんの都合でホテル行ってたじゃん。
 だから、久しぶりにユーラとヴィオルに会ってさ・・・」
「・・・そうか」
「あれ、怒らないの?」
「どこかウロウロしていたなら別だが、友人と会うのに怒る必要があるか?」


 掬い上げられ指で優しく撫でるご主人に、フェンリは気持ちよさそうに目を閉じる。


「兄さん、兄さん。明日も会いに行っていいかな」
「あまり遅くならなければな。好きにしなさい」
「は〜い。兄さん、ありがとー」


 パタパタ羽ばたき、静稀の前でペコリとお辞儀をすると、フェンリはそのまま島へ戻る。


「もう、寝るね。おやすみ、兄さ・・・・」


 言い終わる前にぽてっと転がり、あとには静かな寝息が聞こえた。


「おやすみ、フェンリ」


 部屋の電気を消し、静稀はそっと部屋を後にした。





このお話は、全員完成したカラーを前提に書いてますので・・・
現在、フェンリ以外は色が違っていたりします。

今、その希望の色に変えようと、ユーラ&ヴィオルは奮闘中。
それにしても、夢見すぎ・・・って言わないでくださいねv

ちょっとしたシリーズはまだまだ続きます。
記念すべき第1段でした!

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