注意

日記に載せていたプチ小説をまとめたものです。
なので、中途半端に終わっているものがほとんどです。
あと、書き方なども見直していませんので・・・
所詮は日記小説、と思ってご覧ください。



+ユーラ&ヴィオル主体+




「不安なんです。貴方が私の傍を離れていってしまうような気がして・・・時々眠れなくなるんですよ」
「俺はお前の傍を離れるつもりはない」
「わかってます。だからこそ、その安心感に慣れてしまって、いざと言う時が怖いんです」


 押し黙るヴィオルに、ユーラは寂しげに微笑む


「命は永遠ではない。いつどこで何があるかもわからない。それでも私は、できる限り貴方の傍にいたいんです」
「・・・そんな顔で笑わないでくれ。お前のそんな表情は見たくない」
「たまには許してください。貴方の前でしか、私は素直になれません」
「消えそうで怖いんだ。お前がその表情をすると・・・」
「それなら、消えないように抱きしめてください。これからも、ずっと―――


(2005.12.16)

――――――――――――――――――



「めずらしいですね。ヴィオの方から私の島にくるなんて・・・」


 葉のベッドの上に横になりながら本を読んでいたユーラは、降りてきた白銀のムシチョウを見て微笑む


「ジープから銃をフュンフに渡してくれと頼まれた」


 島への着地と共にヒトになったヴィオルは、一丁の銃を差し出した


「では、あとで渡しておきますね」


 それを受け取り、ユーラは島の隅へしまう


「・・・少し休んでいいか?」
「お疲れですか?」
「眠い」


 島に聳(そび)える木を背に、ヴィオルは木陰へ蹲(うずくま)った
 そのまま動かなくなったヴィオルを見ながら、ユーラは再び葉のベッドに横たわる

 静寂した時が流れていく
 本がめくれる音と、時折吹く風の音が聞こえるだけで、しん・・としている



 やがて、微かに身じろぎをしたヴィオルは、目を閉じたまま・・・


「ユーラ」
「・・・どうしました?」
「こっちへこい」


 珍しいヴィオルからの誘いに、ユーラは本を持ったまま傍に近寄る


「貴方に凭(もた)れていいんですか?」
「かまわない」
「それじゃ、失礼して・・・」


 ヴィオルに座り込み背を預けるユーラを、ヴィオルも後ろからゆっくり抱きしめる


「でもいきなりどうしたんです? 貴方がこんな風にするなんて・・・」
「たまには・・・な」


 ユーラの肩口に口唇を寄せ、ヴィオルは耳元で呟く


「ふふ・・くすぐったいですよ、ヴィオ」
「ユーラ・・・」


 なおもゆっくり触れてはなぞる口唇に、ユーラは本を閉じヴィオルと向き合う

「もしかして、寝ぼけてます?」
「ん〜? 意識はしっかりしているけどな」


 立てひざになり、ヴィオルを見下ろすユーラの首を引き寄せ、そのまま口唇をあわせる


「・・・読書の時間、なんですけどね」
「ダメか?」


 金の瞳を開け見上げてくる顔に、ユーラは呟いた


「まぁ、仕方ありませんね・・・」


 再び合わさった口唇に、静かに時は流れていく――――


(2005.12.24)

――――――――――――――――――



「ユーラ様、きつくはありませんか?」
「えぇ。大丈夫ですよ」


 ユーラの島
 ムシクイのフィーアは、彼の身体を気遣いながら、先を進める


「それにしても・・・女性は大変ですね」
「でも、すごくお綺麗ですよ」


 いつもは高く結んでいる髪も、今日はストレートに降ろしている
 長い髪を肩にかけ、フィーアがやりやすいよう、ユーラはその髪を持った


「しかし、何故急にこんな事を?」
「ちょっと・・・驚かせようと思いまして。ヴィオも喜ぶかと・・・」
「ヴィオル様のためですか? お優しいですね」
「ため、というより・・・ちょっとした悪戯でしょうね」


 にっこりと笑うユーラは、傍から見るととても楽しそうに見える


「はい、できました! はぁ・・・ホントお綺麗です」
「ありがとう」


 さて、一体何をしていたのかというと・・・


 薄紫の長い髪を後ろに垂らし、黒の着物に金の帯
 決して派手ではないユーラの着物姿


「女性と見間違うほどです、ユーラ様」


 最後にふわふわの白いショールをつけ、ユーラは静かに微笑んだ


「では、ヴィオに飛行機でも送りましょうか」
「あ、それなら先ほどお知らせしておきました。もうそろそろお見えになると思います」
「そうですか。フィーアは仕事が早いから助かります」
「いえ。それでは、私は失礼致します」


 ぺこりと頭を下げ、フィーアは去っていた




 羽毛の島に一人佇み、舞い落ちる桜の花びらに手を伸ばす


「さて、ヴィオはどんな反応を示すか・・・楽しみですね」


 空を見上げ、ユーラはそっと呟いた


(2005.12.27)

「何事かと思えば・・・」
「どうです? 似合いますか?」


 フィーアが去って間もなく、降りてきたヴィオルに、ユーラはにっこりと微笑む


「似合うというか・・・」
「ダメ、ですか?」
「いや、綺麗だ。だが・・・」


 何故か視線を泳がせるヴィオルに対し、ユーラはゆっくりと彼に近づく


「照れてます?」
「・・・何というか、お前がそんな姿をするとは思わなかったから」
「お正月ですし」
「でも、着物って・・・」
「やっぱり、ダメですか・・・」


 あからさまにがっかりし、ユーラはヴィオルに背を向ける


「そうじゃなく、扱いが・・・わからない」


 長い紫の髪が風に揺れる


「・・・ユーラ」
「何ですか?」


 背を向けたまま、少し投げやりに答える彼に、ヴィオルは気付かれないように苦笑する
 後ろからそっと帯を潰さないよう抱きしめ、肩に顔を寄せる


「綺麗だ」
「それはどうも」
「でも、女みたいだ」
「女より綺麗だと思いません?」
「それは・・・まぁ、ユーラだからな」


 何ですか、それ。と笑うユーラをこちらに向かせ、そっと長い髪を書き上げる
 そのままキスをしようとするヴィオルの口を指で止め、ユーラは言う


「今年も、よろしくお願いしますね」
「・・・あぁ」


(2005.12.28)

――――――――――――――――――



 目の前に広がるのは、果てしない雪原
 車を降り、足を踏み入れたその世界は、太陽の光にまぶしいほどの輝きを発し、静かな時を蒔いている
 誰も踏み入れたことがないのだろうか
 綿飴のようなふわふわの表面は、目に見える範囲ではどこまでも広がっていた





「綺麗、ですね―――


 白く澄み切った空気を通る透き通った彼の声
 数歩先を歩いていたヴィオルは、立ち止まって遠い先を見つめているユーラの方へ振り返った


「空も木も、全てが白で埋め尽くされている。とても綺麗、ですが・・・」


 不意に言葉を切ってうつむく彼の方へ歩み寄る
 長い髪で彼の表情は見えないが・・・


「ユーラ?」
「いえ、何でもありません。――ただ、綺麗ですが少し寂しいと思いまして」


 顔を上げ、ユーラは目の前に佇むヴィオルの腕を取り、自分のと絡める


「行きましょう。もう少し先・・・本当に真っ白な世界へ」
――あぁ」


 見た目は柔らかそうに見える雪も、実際には少し固めらしく足を踏みしめても、そんなに沈まない
 歩く音さえもあまり聞こえず、吐き出される白い息だけが空に浮いては消えていくだけ――――


 ――やがて、辺りは遠くに影だけ見える木を残し、真っ白な世界に包まれた


 ユーラから離れ、数歩歩いてヴィオルは空を眺める
 雪と同化してしまいそうな彼の背中を見つめ、ユーラは彼に聞こえないよう静かに呟いた


「貴方の存在は確かなのに、時々消えてしまうのではないかと思うほど、貴方の存在は薄くなる。真っ白な雪の中、貴方は溶けてしまうのではないか、貴方に私の想いがわかりますか―――――


 見上げていた空から視線を戻し、しばらくしてヴィオルはユーラのほうを向く
 何故か優しげな笑みを浮かべ、こちらに向かって彼は手を差し出した

 ヴィオルが表情を出す事は珍しい
 この白い雪の世界が彼をそうしているのか、それとも―――――

 差し出された手を握り、ユーラは導かれるままに彼の横へ立つ


「貴方は、消えませんね―――


 ――視線は合わせず、だが今度はしっかりと聞こえるように


―――お前の傍にいる限り、俺は雪のように溶けることはない。お前がいつも俺に存在を与えてくれるから」


 返ってきた言葉は温かく、ユーラは静かに微笑んだ―――


(2006.01.20)

――――――――――――――――――



―――っ・・」


 悲劇は、棚の戸を開けたときに起こった。
 奥に置いてあったはずの蜂蜜が何故か手前にあり、さらに戸を開けた反動で頭の上に落下
 瓶の蓋も緩んでいたらしい。
 頭に当たると、見事に蓋はパッカリ開き・・・
 

 ――――たっぷりと蜂蜜は注がれた、頭の上から全身に。


「考えられる人物は、フェンリしかいませんね・・・」


 静かに怒りのオーラを発しながら、ユーラはチビケマリの姿を思い浮かべる。
 昨日、彼は棚の戸を開けて、奥からクッキーを引っ張り出していた。
 彼しかいないのだ、犯人は。


「さて、どうしましょうか・・・」


 今はいない人物を思い浮かべていてもしょうがない。
 髪から徐々に滴り落ちてくる透明の液体を舐めとり、ユーラは髪と同じくベタついた手で、頭の紐を解いた。

 いつもなら、風にさらりと揺れるほど、綺麗なストレートの髪をしているのだが・・・
 今日に限っては、甘い蜂蜜を滑らせながら、しっとりと濡れ細っている。


「・・・あまり気持ちのいいものじゃないですねぇ、やっぱり」


 とろりとした蜂蜜はやがて、髪から顔へ、顔から首筋へと流れ落ちていく。
 仕方なく上着を脱ぎ、上半身裸となってみたが・・・
 服による遮りがなくなった途端、蜂蜜はさらに首筋から下へと伝っていった。

 日の光を浴び、妖しく輝く透明な液体に、何故か自身を蝕まれている感覚に陥る。
 身体を伝う蜂蜜を指で掬い取り、何となく口に含ませて、ユーラは静かに笑う。


「ちょっと甘すぎですね・・・」


 鬱陶しく顔に張り付く前髪を掻きあげ、蜂蜜は髪に絡まっていく。
 一通り舐め終えてから、ユーラはおもむろに雨乞いの呪文を唱えた。


「雨よ・・・」


 解き放たれた呪文に答えるよう、空に雨雲が集まってくる。
 やがてポツ・・ポツ・・・と降ってきた雨は、すぐさま大降りの涙を零し始めた。

 まるでシャワーを浴びるかのように腕を広げ、ユーラは空を仰ぎ見る。
 身体に絡まっていた粘液は流れ、代わりに冷たい雫が身体を滑り落ちていく。
 腰近くまである長い髪を撫で、彼は最後の1滴を浴びた。


「さぁて、お仕置きの時間ですね」


 しっとりと濡れた髪を絞りながら、ユーラはこれから起こるだろう悲劇を想像し、にっこりと笑った――――


(2006.01.30)

――――――――――――――――――



――――ゆら」


 頭の片隅で、誰かが呼んでいる。


――――ゆら・・・ゆら・・・」


 それは心地よく、穏やかに私の眠りを撫でていく。
 それでも、目覚めなくては――――


――んっ・・・」


 微かに身じろぎをし、まどろみから抜け出すように、ゆっくりと目を開く。
 覗きこまれた影で光は遮られ、思ったより眩しくはないようだ。
 無意識に目を覆っていた腕を下ろし、彼を見上げた。


「・・・おはようございます」


 にっこりと微笑むと、彼は安心したように優しく笑顔を向けてくれる。


「随分と熟睡してしまったようですね・・・」


 葉のベッドから身体を起こし、太陽の位置を見て時間を計る。
 自分にしては珍しく寝込んでいたようだ。
 だから彼も心配したのだろう・・・


「大丈夫か?」
「えぇ。疲れが溜まっていただけですから」


 まだ小さく漏れるあくびをかみ殺し、その場で大きく伸びをする。


「・・・心配しました?」
「少し、な。ムリをさせてすまなかった」


 心底、申し訳なさそうな顔をする彼を見て、何だか少し嬉しくなった。


「まぁ、今に始まったことではありませんし。たまにこうやって貴方に起こしてもらうのも悪くありませんしね」


 彼の手を借りてベッドから降り、解けたままの長い髪を一本に束ねる。


「さてと、フェンリがご飯を届けにくるまで、まだ時間ありますし・・・何か軽く食べますか?」


 彼を見上げた途端、ゆっくりと口唇が降りてくる。


「・・・ヴィオ?」


 どこか優しく、どこか切ない、彼の精一杯の愛情表現


「ユーラ・・・」


 抱きしめられ、安心する自分もいる。


「ヴィオは、どうしたいんですか?」
「・・・もう少しこのままでいたい」


 ―――その想いは、私も同じ


「仕方ありませんねぇ・・・もう少し、だけ―――


 貴方は私の心をわかっている。
 だから、貴方は優しく微笑む―――――


(2006.02.04)

――――――――――――――――――



「ねーねーヴィオル〜」


 島でくつろいでいたフェンリが、ふと顔をあげて言う。
 傍らで剣の手入れをしていたヴィオルは、その声にフェンリの方を向く。


「バレンタインの時だけ、どこからかやってくる『チョコグモ』って知ってる?」
「・・・チョコグモ?」


 聞き慣れない言葉に首を傾げたヴィオルを見て、フェンリはその場に立ち上がる。


「そう、ジョロウグモじゃなくて、チョコグモ。何でも、身体がチョコで出来てるらしいよ〜」
「・・・チョコで出来てたら動かないだろう」
「でも〜見た人いるってー!」


 全く信じていないヴィオルに対し、フェンリは腕を回して力説した。


「お前は信じているのか?」
「ん〜・・・でも、会ってみたくないー? なんかね、そのクモ倒すと、ddの代わりにチョコがたくさん出るってさー」


 大量のチョコを思い浮かべ、口を緩めているフェンリ。
 甘いものが得意ではないヴィオルにとっては、むしろ普通のジョロウグモのほうが魅力的に感じる。


「特徴とか聞いてないのか?」
「えーっと、身体が茶色と黒の縞々ってことくらいしかわからない。って、ヴィオル信じてくれたの?」
「いや・・・信じてはいないが、いたらいたで面白そうだからな」


 未知の生物は自分自身の力を測るのに、丁度いい相手である。
 まだいると思ったわけではないが、少し戦ってみたいと思ったのも事実だ。


「じゃーさ、倒したらおいら呼んでよー! ヴィオルの代わりにチョコ食べる〜」
「本当にいたら、な」


 やったー!と島を走り回りながらはしゃいでたフェンリは、唐突に動きを止めた。


「そういえば・・・おいら、用事あるの忘れてた。ごめんヴィオル! おいら帰る〜」
「ん? あぁ。気をつけて帰れよ」
「あぃあーぃ! じゃ、チョコグモ退治よっろしく〜」


 パタパタと手を振り、消えていったフェンリを見送ると、ヴィオルは再び剣の手入れをし始めた。





 ―――――そして

 どのくらいの時間が経っただろうか。
 不意に背後に殺気を感じ、振り向きざまに剣を横へと構えた直後
 ギィーという低い唸り声と共に、巨大な足が振り下ろされた。

 突然の事とはいえ、上手く態勢を整えていなかったヴィオルは、何とか剣で足を受け止めたものの、その威力に吹き飛ばされる。

 ――島の中央には、巨大な樹木
 受身を取る間もなく、背中から打ち付けられ、一瞬息が詰まった。


「・・・っ・・」


 すぐさま態勢を立て直し、前を見据えると――――
 悠然と佇む茶色と黒のジョロウグモ
 細かく足を動かしながら、輝く眼でこちらを睨んでいる。


「これが・・・チョコグモ?」


 まさか、フェンリの言ったクモが本当にいるとは思わなかったが・・・
 その色合いと、証拠として漂ってくる甘いチョコの香りが、クモの正体を表していた。

 ジョロウグモよりも一回り大きいそのクモを前に深く息を吐くと、ヴィオルは真っ直ぐ駆け出した。

 狙うのはクモの眼―――
 そして、背中―――――

 戦い慣れた素早い動きで、襲い掛かってくる前足を避け、ヴィオルはクモの口元へと滑り込む。
 ――瞬間、クモの口から吐き出されたのは糸ではなかった。

 大きな弾丸のような茶色の塊
 剣で叩き切ろうと構えた途端、それは液体となって剣を滑り二つに割れた。
 粘液に近い、溶けたチョコレート
 剣を持つ腕から身体の半身にかけてそれはかかり、重たく動きを鈍らせる。


「くっそ・・・」


 甘ったるい香りに顔を顰めながら、それでも再び吐き出されたチョコをなんとか避ける。


「仕方ない・・・相手がチョコなら、溶かすまでだ!」


 剣を納め、クモと上手く間合いを取りながら、ヴィオルは呪文を唱える。

 ――――リヴが使える火の魔法、焚き木
 呪文を放ち、現われた木を掴むと、ヴィオルは再びクモへ近づく。

 敵が遠くへいれば足を使い、近くにいればチョコの塊を使う。
 チョコグモの攻撃パターンを読み取り、チョコが発射された瞬間―――
 ヴィオルはクモの口の中に、もっていた松明を投げ入れた。
 自分自身、チョコの塊をくらうという捨て身の作戦だが、どうやら上手くいったらしい。


「内部から溶けろ!」


 やがて、苦しげな声をあげ、チョコグモはお腹の辺りからトロトロと溶けていく。
 ただ、そのせいでクモのほぼ真下にいたヴィオルは、溶けるチョコを頭からかぶってしまったが・・・






 島一面を覆うチョコの湖の中、ヴィオルはチョコ色に染まった白銀の髪をかきあげる。
 フェンリを呼ぼうと思ったが、これほどの量ではさすがの彼も食べきれないだろう。
 かといって、この甘い匂いだけは、どうにも我慢できない。
 髪から垂れてくるチョコが、否応にも口の中へ零れてくる。
 その甘さに顔を顰めながら、さらに手にかかるチョコを舐め取った。
 そうでもしないと、ろくに手を使うことも出来ない。


「参ったな・・・」


 この量が、果たして雨で流れてくれるだろうか・・・
 逆にチョコの洪水となって、さらに状況が悪化するのではないか・・・

 色々な思考が、頭の中を過ぎ去っていく。


「・・・仕方ない」

 
 ヴィオルが最終的に取った判断は、ユーラを呼ぶこと。
 彼なら何かいい案をくれるかもしれない。





 ――しばらくして、やってきたユーラは、島一面の光景に目を見開いた。


「これは・・・どうしたんです?」
「チョコグモっていう奴を倒したら、こうなった」


 チョコの泉の中に佇む、チョコに塗れた(まみれた)恋人を見て、ユーラは小さく声を漏らして笑う。


「甘いものが苦手な貴方には、耐え難い状況ですね」
「早く何とかしてくれないか? 俺では処理できない」
「それじゃあ・・・端の方から凍らせていきますね。そうすれば、板チョコになるでしょうから」


 にっこりと微笑み、すぐさまユーラは呪文を唱え始める。
 地道な作業だが、チョコを処理するには一番早い。




 やがて―――
 レンガ状に積み上げられたチョコの山が出来上がる。
 そしてその横に佇むのは、未だチョコに塗れたままのヴィオル


「あとはこのチョコの山を片して、貴方自身は雨を浴びれば大丈夫そうですね」
「すまない。助かった」


 滴ってくるチョコを振り払いながら、困ったような笑顔を向けるヴィオルに、ユーラは微笑んで彼に近づく。


「美味しそうですね、ヴィオ」
「・・・ん?」


 おもむろに腕をつかまれ、指がユーラの口内へ消える。
 ペロペロと舐められ、ユーラは更にヴィオルの首筋にも顔を埋める。


「とっても甘いですよ」
「汚れるぞ」
「別に・・・構いません」


 綺麗に舐めとられながら、やがてユーラはヴィオルの口唇に軽く触れる。


「・・・舐めていいですか?」


 にこりと微笑み、ヴィオルの返事も待たず、ユーラは自分の口唇と重ねた。




「たまには甘いものもいいでしょう?」
「・・・極たまには、な」


 重ねられた口唇は、甘い甘いチョコレートの味がした―――――


(2006.02.10)

――――――――――――――――――



 ――――遠く 遙か遠く

 ――――伸ばした腕は つかめない

 ――――心だけが 離れていって

 ――――僕はずっと 影を追う



 澄み渡る夜空に通る、静かな静かな歌声
 薄く目を開き、声の主をたどる



 ――――あの時の 約束は

 ――――空に 消えて

 ――――残されて 縋る

 ――――その思い だけに



 木の上
 姿を見止め、腕を伸ばした


「アフト・・・風邪、引くぞ」


 声に気付き、歌は止まる
 柔らかな笑みの後、彼は静かに顔を振った

 ―――だいじょうぶ

 静かに彼の口が動く
 そしてまた、歌が聞こえる



 ――――あと 少しだけ

 ――――早く気付く事が 出来たなら

 ――――貴女を 失う事は

 ――――なかったのだろうか


 ――――あと 少しだけ

 ――――傍に いたかった


 ――――あと 少しだけ

 ――――愛して いたかった


 ――――想いはもう 叶わない


 ――――残された 腕に

 ――――残る 温もり


 ――――果てなく 遠く

 ――――貴女を 想う



 声は止まる
 夜空を見上げる彼の頬を伝う涙は、何を表していたのだろうか

 静かな時に、またゆっくりと瞳を閉じた――――


(2006.02.13)

――――――――――――――――――



 望むものは簡単に手に入る地位にいた
 必要と思えば傍に置けるし、いらないと思えば簡単に捨てられる

 初めはよかったのかもしれない
 それでも、だんだん飽きてくる
 それは誰も同じだろう・・・日々がつまらないのだから

 そんな毎日
 腕を買われて、とある領主の下で働いた

 彼の趣味で仮面をつけさせられた
 それでもいいと思った
 新しい日々が始まったから・・・

 結局、後に腕だけを買われたのではないとわかったが
 下卑た声、腕、面
 思い出しただけで吐き気がする

 そんな日々も過ぎて、戦いが始まった
 そして、出逢った

 私を信じてください・・・
 アナタにその言葉は届いたのか

 今でも時々不安になる
 穢れた私を救ってくれたアナタは、私から離れていかないだろうか
 アナタの眼に、私はどう映っているのだろうか




 ―――私は綺麗でもなんでもない




「・・・どうした?」


 優しげに見下ろすアナタ
 私は笑って、首を振る


「何でも、ありません・・・」


 今は信じていればいい
 アナタのことを


「私の傍にいてくれますか?」


 風に揺れる髪を、アナタはそっと撫でてくれる


「お前は時々、凄く不安そうな顔をする」
「・・・アナタにだけです」
「俺を信じられないか?」


 そうではない
 信じているからこそ、裏切られるのが怖い

 目を伏せた私を、アナタは少し強く抱きしめる


「あの時の言葉の通り、俺はお前を信じている―――・・・」
――・・・その言葉だけで、充分です」


 私を信じてください
 その言葉の続きは・・・


 ――――私もアナタを信じますから・・・


(2006.02.25)

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Since 2005.12−2006.02