注意

日記に載せていたプチ小説をまとめたものです。
なので、中途半端に終わっているものがほとんどです。
あと、書き方なども見直していませんので・・・
所詮は日記小説、と思ってご覧ください。



+オリジナル+




 空が赤く染まる頃
 太陽の光を遮るように、薄暗い雲が辺りを覆っていた


「雨、か・・・」


 出かけ間際に折りたたみ傘を持ってきて正解だった
 ポツ――っと頬に冷たい雫を感じ、俺は慌ててカバンから傘を出すと灰色がかった赤い空に、バッと大きく広げた





 いきなりの雨で傘を持っていない人が、せわしなく小走りで走り去っていく
 なんとなく優越感を覚えながら、俺は家への近道になる公園を歩く

 最近、すっかり寒くなってきた秋の空
 それでも雨を零すほど気まぐれなのは、夏と変わっていないのかもしれない


「あ〜寒い寒い」


 ジャケットの前を合わせ身体を縮めて、今日は少し早歩き
 公園のメインスポットともいえる噴水広場にたどり着いた時、俺はその足を止めた

 雨に打たれながら、ただ空を眺めている女性
 薄いブラウスに黒のロングスカート、雨が降っていなくても寒そうな姿
 長い黒髪はしっとりと濡れ、張り付いている所為で表情がよくわからない。
 泣いているのか、それともただボーっと空を見上げているだけなのか
 それすらもわからない

 細い腕に30センチはありそうな大きな瓶詰めを抱え、彼女は座っていた


 いつもなら横目で見ながら、逃げるように歩き去るのに
 何故か今日は足が動かなかった

 よくわからないが、止まってしまった


―――風邪、引きますよ」


 いきなり声をかけた俺に、彼女は口だけで静かに笑う
 何も言わずに・・・


「風邪、引きますって!」


 もう一度、今度は少し強めに言ったが、それでも彼女は動く気配を見せない
 ふと、彼女の持っている瓶に目を落とすと、中には真っ赤な液体が瓶詰めの3分の2を占めていた

 血のように赤く、しかし透き通ったその液体に、どうしてか目が離せない
 その視線に気付いたのか、彼女は渡すまいとさらに強く瓶を抱いた


「あ、えと・・・すいません、ちょっと中身が気になったものですから」


 って、そんなこと言っている場合じゃない


「それより、風邪引きますって! 人を待っているんですか?」


 彼女は僅かに首を横に振る


「じゃあただ何となくここにいるだけなんですね!?」


 彼女は笑って、頷いた


「それなら、俺の家すぐ近くですから。行きましょう! 風邪引いたらお金かかりますよ!!」


 彼女の腕を引き立ち上がらせると、そのまま小さな傘の中に入れ、俺たちは走った


(2005.12.17)

――――――――――――――――――



 男は手を伸ばす
 蹲ったままの俺は、その手を掴まずヤツを見上げる


「この手を掴めば、お前の望むものが手に入るだろう」
「俺は、望むものなどない」


 男は目を閉じ、うっすらと笑みを浮かべる


「何も望まない奴なんか、この世にはいないさ」


 それでも俺は、その手を掴む気にはなれない


「・・・後悔するぞ。自分の行おうとしている事に」
「構わない。あんたのその手を掴むぐらいなら、後悔などいくらでもしてやる」
「偉くなったものだ」


 目を開き、男は腕を下ろした


「せいぜいあがくがいい。その後で、お前は必ず俺の元へ現われる。その時を楽しみにしていよう」


 踵を返し、男は闇に消える
 俺はその後姿を見送りながら、自嘲気味に笑う


「はっ・・・上等じゃねぇか」


 ゆっくり立ち上がり、おもむろに見上げた空に浮かぶ月に視線を送る


「てめぇが後悔するんだよ。俺を見逃した事にな・・・」


 奴とは逆の方向、俺は足を向けた


(2005.12.21)

――――――――――――――――――



「ねぇ、ここには誰もいないよ? なんでこんなところにいるの?」


 白いマフラーに赤いマントを羽織った女の子が、古びた教会の前に立つ女性に声をかける


「この教会ね、ずっと昔から誰もいないんだよ」


 女性は振り向き、少女と視線を合わせるようにその場にしゃがみこむ


「貴女には見えない? いるのよ、すぐ傍に」


 少女は首を傾げる
 屋根もボロボロになり、日の光が差し込んでいる教会は、誰か植えたのか花が咲乱れている


「ここの花はね、昔、私の大切な人が植えたの。その人はね、今もここにいるのよ」
「・・・私には見えないよ」
「貴女にも、大切な人が出来ればきっと見えるわ」


 女性は立ち上がり、もう一度教会を見つめる


「心から思う人は、いつまでも貴女の傍にいてくれるから―――


(2005.12.22)

――――――――――――――――――



頭の文字が「あいうえお〜」な詩


 朝目覚めると
 いつものように
 歌をうたう
 笑顔はずっと
 音と共に

 悲しいことなど
 消えてしまえ
 暗闇すらも
 消し去って
 声の限りに

 寂しい時でも
 しんみりしないで
 澄み切った声が
 切なくなるから
 そっと声に

 楽しさを含ませ
 力の限り
 突き進もう
 手を繋いで
 友達と一緒に

 泣き虫はダメ
 憎まれ口もダメ
 温もりをずっと
 ねぇ、いつまでも
 望まれることが大切

 花散る運命でも
 1つの歌を
 2人で分け合えたなら
 ヘタでもいい
 本当の心だから

 前を向いて
 魅力あるその歌声で
 無から生まれた
 メッセージ
 もっとアナタに届くよう

 安らぎと
 豊かな音色は
 夜も明るく照らし出す

 ランプの灯りは
 リズムに揺れる
 ルビーの輝き
 レコードにのせて
 ロンドは永久に舞い踊る

 私の歌声
 をアナタと共に
 ん・・・これが私の思いだから


(2006.01.04)

――――――――――――――――――



 音が無い、風が無い。
 そんな無に満ちている世界
 生温かい空気が身体に絡みつく。




「今日は外がやけに静かだね」


 窓枠に手を掛け、外の闇を見つめている子供に母は言った。


「もうお休みなさい。でないと悪魔が攫いにきちゃうわよ」


 その言葉に、子供は反応を示す。


「えぇ〜!! 僕もう寝る。お休みなさいお母さん、お父さん」


 座っていた椅子から飛び降りて、子供はお辞儀をした。


「お休み、ノア。また明日な」
「お休みなさい。お祈り忘れないようにね」
「は〜い」


 そのまま二階へと走っていった子供を見送ってから、母は窓のカーテンを閉めた。
 何か良くないことが起こりそうな。
 そんな夜だった―――





 ノアの家はキリスト教だった。
 寝る前にはベッドの前で神様にお祈りを捧げる。


「お祈りか・・・面倒くさいんだよねぇ〜」


 文句を言いながらも、天窓から覗く月の光の前に跪き、手を合わせる。
 音のない部屋にノアの声がやけに大きく響いて聞こえる。


―――アーメン」


 胸の前で小さく十字を切って、ノアはベッドへと潜り込んだ。
 微かに聞こえていた父と母の会話ももうなくなり、本当の静寂が訪れた。



 静かな時の中、ノアは瞳を閉じる。
 しばらく暗い世界を漂っていると、不意に木々がざわめきだした。
 先程までは無に近いくらいの静寂であったのに・・・
 何やら言い知れぬ恐ろしさを感じ、ノアはそっと瞳を開けた。
 目に入ってきたのは変わらない月の光と、いつもの部屋の風景
 ノアは小さくため息をつくと、また瞳を閉じた。


 月の光が瞼を通して、闇を明るく照らす。
 朝が来ればまた幸せな一日が始まるのだから。
 そんな夢の中へ落ちていくノアを現実へ引き戻したのは、下の階から聞こえてきた母親の叫び声だった。



 ただ事ではないその叫び声
 目を見開いてベッドから飛び降りると、ノアは急いで母の部屋へ向かった。
 生温かい邪悪な空気
 部屋に近づくにつれ、嫌な臭いが鼻についてくる。


「お父さん!! お母さん!!」


 バンと開かれた部屋には、無残に転がっている両親の姿
 そしてその上を死の象徴である黒死蝶が優雅に飛びまわっている


「お・・・・お父さん!! お母さん!!」


 急いで駆け寄るノアに黒死蝶は不敵に笑みを浮かべる。


「起きてよ・・・ねぇ、お父さん!!起きてよ!!」


 いくら揺すっても動きのない父を、涙も流さず揺さぶり続けた。
 その時、耳に入ってくる微かな声にノアは振り向いてその方向を見た。


「ノ・・ア・・・」
「お母さん!!」


 小さく息をしている母の身体を抱き起こす。


「お母さんしっかりして!!」


 口許から流れ出ている血液、虚ろな瞳にはもうノアの姿は映っていないのかもしれない。


「ノア・・逃げ・・・て・・・・」


 その言葉を最後に、母親は崩れ落ちた。


「お母さん・・・? お母さん!! お母さん!!」


 陰っていた空、雲がさーっと退いていく。
 窓から差し込んだ月の光は、残酷な情景を蒼の光で鮮やかに映し出した。
 黒の中に座り込んだ子供は、その瞳で何を見つめ何を思っていたのだろうか・・・



 差し込んだ月の下で、子供は二つの赤い光を見る――――


(2006.01.05)

――――――――――――――――――



 空 冴え渡り 蝶 舞い降りし 時
 無 揺らめく 風 とならん
 月 煌めき 星 瞬く
 我 この時により 龍 とならん


(2006.01.14)

――――――――――――――――――



 子守唄


 夜は静かに訪れる
 風に吹かれ木々は眠る
 いいこ いいこよ
 おやすみなさい
 小鳥が囀る その時まで

 まんまる月は目を覚ます
 太陽はそっと目を瞑る
 いいこ いいこよ
 おやすみなさい
 お日様目覚める その時まで


(2006.01.15)

―――――――――――――――――
Since 2005.12−2006.01