注意

日記に載せていたプチ小説をまとめたものです。
なので、中途半端に終わっているものがほとんどです。
あと、書き方なども見直していませんので・・・
所詮は日記小説、と思ってご覧ください。



+フェンリ主体+




 朝、目覚めると―――


「ほぇ? へ? あれ・・・?」


 なぜか羽毛の島の上にいた
 ユーラのところで寝てしまったのかと、フェンリは辺りを見回すが・・・
 彼の姿は見えない


「・・・留守?」


 もう一度辺りを見回し、フェンリは1匹のムシクイに目を留める


「あれ? アイン??」


 ユーラの島なら、フィーアがいるはずなのだが・・・いるのはアイン
 ということは・・・


「やっぱりここはおいらの島!?」


 がばっと起き上がり、足元を埋める羽毛を踏みしめる
 夢を見ているわけではない


「なんで? なんで羽毛の島になってるの!?」


 ユーラの島を見てから、欲しくて欲しくてたまらなかった羽毛の島に、自分は今足を下ろしている
 跳ね上がる心臓を押さえながら、とにかくフェンリは飼い主である静稀を待つことにした

 そして――――




「兄さん! なんでおいらの島が羽毛の島になってるの!?」


 部屋に入ってきた静稀の姿を確認すると、フェンリは思い切り大きな声で叫んだ
 びっくりするだろうということを想定済みの静稀は、思ったとおりの反応に笑みを浮かべる


「新しい機能が始まったらしくてな。お前のアイテムでいらないものもあったし・・・片付けついでに手に入れたんだ」
「ほ・・ほんとに!?」
「あぁ。前から欲しがっていただろう? それに、今日はお前の誕生日だしな。簡単なプレゼントだ」
「・・・あ、ありがとぉーーーーーーーーーーーー!」


 ヒトの姿になることも忘れて、フェンリは羽毛の島を飛び回る
 アインは何事かと見上げているが、フェンリははしゃぎ回った


「あぁ、それと。これもプレゼントだ」


 飛び回るフェンリを捕まえ、静稀は小さなジンジャークッキーを手渡す


「ケーキの代わりだな」
「充分でしょ!」
「あとでユーラやヴィオルも誕生日パーティを開いてくれるそうだ」
「おぉー! おいら、かなり幸せ者じゃーん!!」


 大事そうにクッキーを羽毛の上に置くと、フェンリはその上にちょこんと座る


「誕生日おめでとう。フェンリ」
「ありがとー兄さん! んでもって、これからもよろしく〜」
「こちらこそ」


 さてさて、ユーラたちによる誕生日パーティは、また次回――――


(2005.12.18)

――――――――――――――――――



「なんだこれぇー!?」


 クリスマスの朝
 目が覚めたら、柵が出来ていた


 寝ぼけているわけではないらしい
 目をこすってもこすっても、その柵は消えないのだから


「あ、靴下がなくなってる・・・」


 昨日の夜までは、ちゃんと枕元に靴下が置いてあったのに
 今朝はその靴下がなくなっていた

 ということは・・・


「きょ・・去年は雪だったよね。てことは、今年は柵!?」


 ばばん!と聳え立つ柵にそっと触れると、それはひんやり冷たかった


「うわ〜ミレ○リオみたい」


 ライトがつけば綺麗なのに・・・と思ってみたりする


「なんかおいらのクリスマスプレゼントって、いつもいい物こな〜い?」


 ちなみに、ここまで全て独り言だ


「やっぱり日ごろの行いがいいからだよなぁ〜・・・」


 てへへと笑っているが、島にはお前一人しかいない!


「これでクジも当たってくれれば、文句ないんだけどなぁ〜」


 欲張りはいけません


「・・・でも、やっぱおいらって天才だなぁ〜」


 関係ない


「・・・」


 ・・・


「ナレーター聞こえてんだよぅ!」


 ・・・失礼しました


「さってと、皆さんもよいクリスマスを〜」


 ハッピーメリークリスマス!
 この日だけは、私仏教だから!といわず、素直に楽しみましょう


(2005.12.25)

――――――――――――――――――



「もぉ〜いーくつ寝ーるとーおしょーがーつぅ〜♪」


 小さな身体をパンと膨らまし、フェンリはユーラとヴィオルの前でのんきに歌う


「もうお正月ですか・・・早いですねぇ」
「そうだな」


 ユーラ、ヴィオルも、まったりとした時を過ごしている


「ねぇ、フェンリ。来年は、ミカンになってみませんか?」
「お正月には〜♪ ・・・へっ!?」


 唐突なユーラの言葉に、フェンリは歌を止めて彼を見る


「ミ・・ミカンって・・・?」
「ですから、例えばそのマリモカラーをオレンジにして、餅の上に座るんです」
「オレンジ!?」


 またユーラのイタズラが始まった、とヴィオルは哀れみの目でフェンリを見た


「もうかなり長い間マリモでしょう? たまには色を変えないと」
「でもぉ・・・おいら=マリモってイメージ定着してるからさぁ〜」
「お正月が終わったら、戻せばいいんですよ」
「うーん・・・ミカンかぁ〜」


 腕を広げ、自分のカラーを確認するフェンリ
 むむぅーと唸る声も聞こえる


「何なら・・・一瞬でオレンジになってみます?」
「そ、そんなこと出来るの!?」
「えぇ」


 それはもうにっこりと笑うユーラ
 さすがに見守っていたヴィオルも、彼の肩に手を置く


「もうやめとけって」
「いいじゃないですか。楽しいんですから」
「お前の後ろに隠してあるオレンジのペンキを見る限り、楽しいとはいえないと思うが?」
「ペンキ!?」


 驚いたのはフェンリ
 まさか一瞬で色がえが、ペンキで色がえとは思っていなかったらしい
 思惑を中断され、ユーラはがっかりしたような表情を見せているが・・・


「仕方ありません。フェンリオレンジ計画は諦めましょう」
「ほっ・・・」


 フェンリはあからさまに安堵の息を吐く


「その代わり、ヴィオルに餅になってもらいましょうか」
「・・・はぁ?」
「もう少し真っ白じゃないとダメですね。どうです?」
「冗談だろ?」
「フェンリのオレンジ計画をダメにしたのですから、責任とっていただけますよね?」


 美しく微笑むユーラは、女性と見間違うほど綺麗なのだが・・・


「・・・フェンリ、黙ってオレンジにされろ」
「えええぇぇー!?」
「だ、そうですよ。フェンリ。覚悟はいいですね?」
「いーやーじゃーーーーーーーーーー!!」


 この後、フェンリがオレンジになったかどうかは、ユーラとヴィオルだけが知る


(2005.12.26)

――――――――――――――――――



「・・・はぁ」


 朝っぱらから、フェンリの重たーいため息が聞こえる


「うー・・・はぁ・・・」


 少しテコテコと歩いては立ち止まり、そこでため息
 それを何回繰り返したことだろうか
 さすがにヘンに思ったムシクイ、アインは遠慮がちにフェンリの肩を叩く


 首を傾げ、どうしたの?と尋ねているかのようなアインの表情
 フェンリはアインに飛びついた


「ちょっとアイン聞いてよー!!」


 言葉はわからないが、何か訴えているフェンリの表情に、彼女は頷き、フェンリに座るよう促す
 隣にチョコンと座ったフェンリは、帽子の中から何十枚かの宝くじを取り出した


「これね、年末のジャンボdoodooクジなんだけどさ、100枚あるのね」


 束を手渡され、アインはパラパラめくりながら番号を見る


「で、100枚もあるのに、4等と5等しか当たらなかったんだよー!」


 フェンリの泣きそうな表情から、どうやら全て外れたのだとアインは思ったらしい
 宝くじを指差し、それから彼女自身の口を指差す


「へ? 食べていいかって? あ、えーと」


 フェンリも帽子からおやつを出して、食べて見せた
 その行為にアインは大きく頷く


「んー・・・でも、それ紙だよ? アインは紙も食べちゃうの??」


 宝くじを指し、フェンリ自身の口を指してから。
 今度は自分のお腹を指し、腹痛を訴えるように前かがみになって苦痛の表情をする
 その顔に、アインも悩みの顔を浮かべた




 少しして、いきなり彼女はパンっと手を叩くと、今度はマッチを擦るジェスチャーをする


「へ? 燃やせって?? なーるほど。嫌なものは燃やすのが一番だよね」


 手渡された宝くじから、★のついた当たりくじだけを抜き、フェンリは焚き木の呪文を唱え、放つ

 パチパチと燃えていくはずれクジ
 なぜかアインは、フェンリの手に残ったあたりクジを不審そうに眺めている


「ん? これは当たってるから燃やさなくていいんだよ」


 何か理解したのか、今度は怒ったような表情を見せる彼女


「え? なに・・なんで怒ってるの!?」


 言葉が通じない以上、彼女が何を言っているかわからない
 フェンリがオタオタしていると――――


「彼女は、全て外れならため息を吐くのもわかりますが、少しでも当たっているのなら、ため息は吐くものではない。と言っているのですよ」


 突如島に降りてきたのは、ムクチョウのユーラ
 彼はムシクイ語もマスターしているため、彼女と話すことが出来る


「だってユーラ。100枚あるのに4等と5等しか当たらなかったんだよ!?」
「何を言っているんですか。すごい売れ行きでクジが買えない人や、ddが足りなくて100枚も買えない人だっているんですよ」
「それは・・・そうだけど・・・」
「そういう人たちのことを考えたら、当たっているだけでもいいと思いますよ。それに、5等だけではなく4等まで当たったのですから、充分イベントとしては楽しめたでしょう?」
「むぅ・・・」


 ユーラに諭され、アインに頷かれ、フェンリは口を膨らませながらも大人しくなる


「まぁ、私も4等と5等しか当たりませんでしたけど。すごいのは、ヴィオですね」
「ヴィオル?」
「彼は20枚か30枚で、4等も引き当てたそうですよ。確実に当たる私たちとは違ってね」
「ほぇ〜・・・」
「それが、クジのおもしろいところですね。それにフェンリは靴下から良い物が出ているではないですか。ここで運を使ってしまうのは、もったいないかもしれません」
「あ、そっかぁ〜」


 クリスマス靴下から氷の柵を引き当てたのは、誰でもないフェンリなのだから
 なんか満足したように、フェンリはにーっこりと笑った


(2005.12.31)

――――――――――――――――――



「新年あけまして!!」
「おめでとうございます」
「おめでとう」


 年越し、年明けと一緒に過ごしている3人は、鐘の音と共に、頭をさげた


「いや〜今回も無事に年越しできたねぇ〜」
「今回も、って。ヴィオは初めての年越しですよね」
「そうだな。俺は初めてだ」
「あ、そっかぁ」


 ヴィオルだけは2005年の8月からリヴ界に入ってきたため、年越しは初めてだ


「ま〜なんか、年を越せる仲間が増えて嬉しいよねぇ〜」
「そうですね」


 と、そこへ・・・


「あけましておめでとうございます」
「よぅ! あけましておめでとうな」


 降りてきたのは、コキュとヴィネガ
 コキュに至っては、薄ピンクの着物を着ている


「うわぁ〜コキュ可愛い!」
「ありがと」


 フェンリとユーラの間に座ったコキュは、にっこりと微笑む


「おら。めでたい時はコレだろ!」


 ヴィオルとフェンリの間に座り、目の前に大きな酒樽をドンと置いたのはヴィネガ


「重いお酒を持ってきてくださったのは嬉しいですが、フェンリはまだ子供ですよ」
「ガキにはガキの飲み物ってのがある」


 言われるのがわかっていたのか、さらにゴソゴソとお子様用ジュースを取り出し、酒樽の上に乗っけた


「これでいいだろ?」
「うわ。ありがとー! ヴィネガ様!!」
「あ、わたしも手伝う」


 それでは、乾杯!と、それぞれのグラスに飲み物を注いでいく
 もちろん担当はユーラとコキュ

 並々と注がれたところで、全員はグラスを上に掲げた


「じゃ、せーの!」
「「かんぱーい!!!」」


 フェンリの声と共に、グラスがカチンと盛大に音を立てた


「今日は腕を奮ってみました」


 にっこりと微笑むユーラが出したのは、綺麗なおせち


「ユーラって、料理もうまいよねぇ〜」
「うわぁ・・・ユーラさん、今度おせちの作り方教えて!!」
「えぇ、もちろん」


 さっそくパクつく二人に対し、ヴィオルとヴィネガは酒を片手に話を進めている


「な〜んか、今年は大勢いて楽しいね!」
「来年もまた、皆さんと過ごせるといいですね」


 こうして、フェンリたちの2006年が幕をあけたのです


(2006.01.01)

――――――――――――――――――



――――よっと」


 爽やかに香る梅の木の島に飛び降り、フェンリはうーんと伸びをする
 どうやら、島の主ユーラは留守のようで・・・
 どうせヴィオルの島にでも行っているのだろう、と勝手に解釈し、フェンリは寝転がった


「そんな場所でお休みになられては、風邪を引かれますよ」
「ふぇ?」


 ぱっと目を開いた先には、ピンクの髪をなびかせ、こちらを見下ろしている女性


「・・・えーっと」
「フィーアと申します。ユーラ様にお世話になっているムシクイです」
「む・・ムシクイ!? しゃべれるの!!?」


 がばっと飛び起き、フェンリは背の高い彼女を見上げる


「えぇ。リヴ語はマスターしておりますから」
「わーわーわー!! すっげぇーー!!」


 ぴょこぴょことジャンプしたところで、フィーアとの身長差は明らかだが・・・


「そうかぁ〜さすがユーラのとこのムシクイさん。頭いいんだねぇ〜」
「会話は大切ですしね。ユーラ様と会話するためにリヴ語覚えたのですが・・・ユーラ様の方が先にムシクイ語をマスターされて・・・」
「そういや、ユーラがムシクイと話しているの見たことある」
「お美しいだけでなく、頭脳明晰で素晴らしい方だと思いますわ」


 少しうっとりとした表情でユーラを語るフィーアを見て、フェンリはふと思う


「フィーアってユーラのこと好きなの?」
「好きだなんて私如きがっ! ユーラ様にはヴィオル様という大切な方がおりますし、もちろんフェンリ様もね」
「ん〜・・・そりゃおいらやヴィオルはユーラと仲いいけど、仲いい相手って何人いてもいいと思うよ。だから、私如き〜なんて言わないでさっ!」


 手を伸ばし、フィーアの腕を掴んでフェンリは笑う


「フィーアも友達になろうね! おいら、フィーアも好きだよ」
「・・・ありがとうございます」
「だからーフィーアもユーラが好きなら、告白すればいいよ」
「こ・・告白!?」
「そそ。ユーラのこと好きだから、仲良くしてくださいーってね」


 と、そこへタイミングよく、フィーアの後ろから声が聞こえた


「何を楽しそうにお話しているんですか?」
「あ、ユーラ!」
「ユ・・ユーラ様、お帰りなさいませ」


 何故かいつもと異なり、顔を背けて挨拶をするフィーアと、どこか楽しそうなフェンリ


「フィーア、どうかしましたか?」
「いえ。何でもございません」
「何でもじゃないよー! あのね、ユーラ。フィーアがユーラに言いたい事があるんだって〜」
「ちょっ・・フェンリ様!!」


 いきなりしゃがみこんだかと思うと、手で口を塞がれ、フェンリはモゴモゴと暴れる


「何やらフェンリに言われたようですね」
「あ、いえ・・その・・・」
「ぷっは・・・」


 ようやくフィーアの手から逃れ、フェンリはすぐさまケマリの姿へ戻り空へ飛び上がった


「おいらお邪魔だから帰る〜 じゃ、フィーア頑張ってねぇー!」
「あ、フェンリ様!! ちょっと待ってくださいー!!」
「バイバイ」


 フィーアの声も虚しく、姿を消したフェンリ
 その残像を恨みつつ、フィーアは深くため息をついた


―――ユーラ様」
「何ですか?」


 改め、ユーラのほうへ向き直り、彼をしっかりと見据え、フィーアは言う


「私は、貴方様を尊敬しております。そして、あ・・愛して・・・います。これからもずっと貴方様の傍に居させて下さい」
「何かと思えば、私も貴女に頼りきっているところがあるのはわかるでしょう。傍に置く置かないなど関係なく、私には貴女が必要なんですよ」


 柔らかな微笑みを浮かべたまま、ユーラは立ち尽くすフィーアをそっと抱きしめる


「私一人では、どうも上手くいかない事もあります。ですから、フィーア。これからも私のお世話をお願いしますね」
「・・・ユーラ様。ありがとうございます―――





後日談


「それにしても、貴女はフェンリに何を言われたんですか?」


 葉のベッドに寝転がるユーラ
 フィーアは、その横で紅茶を煎れている


「あ、えーとですね・・・ユーラ様に仲良くして下さい、と言えと・・・」
「・・・仲良く。フェンリは何かを勘違いしているようで」
「ユーラ様?」
「友情と愛情は違う、そういうことですよね? フィーア」


 さらりと述べたユーラの言葉に、思わずフィーアは持っていたカップを落としそうになる


「ユーラ様・・・」
「仲良くして下さいね、フィーア」
―――はい」


(2006.01.19)

――――――――――――――――――



「ヴィーオールさーん!!」


 それはもう勢い良く降ってきたケマリは、隕石の如く島の真ん中にどかん!と落ちる
 あまりの衝撃に、思わず島の主であるヴィオルも本を閉じて落下地点を見た


「・・・フェンリ?」


 ―――返事はない


「大丈夫か?」


 辺りの砂埃がおさまると、島の真ん中に小さな穴があいていた
 覗きこむと、奥のほうで緑の塊がモゾモゾと動いている

 ―――どうやら生きているらしい


「フェンリ!」
「・・・ヴィオル助けて〜 抜けないー!」


 どこが顔でどこが羽だかわからないが、モゾモゾしているのは土の中から身体を出そうとしていたかららしい
 上手い具合にはまって、自力では抜けないようだが・・・


「ちょっと待ってろ」


 ヴィオルはすぐさま竜巻の呪文を唱え始める
 詠唱が終わり、呪文を放つと同時に、フェンリの小さな身体も再び勢いよく穴から飛び出した


「あぁぁぁれえぇぇぇぇ・・・・」


 クルクルと島の上空で回るフェンリの緑の身体は半分が土色に染まっている
 やがて竜巻も止まり、ポトンと島に落ちたフェンリはフラフラになりながらも、身体の土を一生懸命掃っていた


「・・・お手数かけましたー」
「いや、それよりこの穴はどうするか・・・またお前がはまっても困るしな」


 ヴィオルほど身体がでかければ、大して気にもならない程度の穴だが・・・
 フェンリから見れば、立派な落とし穴である


「じゃあーおいらが頑張ります!」


 と、フェンリが唱えたのは地震
 軽く地盤を緩くして、それから今度は雨乞いの呪文を唱えた

 地震によって柔らかくなった土は、雨によって土砂になり、穴を埋める
 多少島の形が変わったような気もするが、元からシンプルなヴィオルの島
 気に留めるような事はない




「ところで、何の用だ?」


 とりあえず一段落してから、すっかり緑に戻ったフェンリに尋ねる


「ん〜・・・用はない。ヒマだったからー」
「またか・・・」
「いいじゃんいいじゃーん! で、ヴィオルは何してたの?」


 今日は珍しく戦闘訓練ではないらしい
 ヴィオルの横に置かれている本を手に取り、フェンリはペラペラとめくった


「・・・何これ」
「ムシクイ語の本だ」
「ムシクイ語!?」


 何だか見慣れない文字が本にはずらーっと書かれている
 見ているだけでクラクラしてきたフェンリは、バンと本を閉じた


「お前もいい加減ムシクイ語を勉強したほうがいいぞ」
「うぇ〜・・・」


 ムシクイ語が出来るのは、ユーラのみ
 フェンリに至っては、全くしゃべれない


「ジェスチャーでアインたちと話すのは大変だろう」
「そうだけどさー・・・」
「わからなければユーラに聞けばいいし、実践的に会話するならあいつの島にいるムシクイたちか、今はいないがノインと話せばいい」


 ノインとは、ヴィオルの島にいる白ムシクイ
 リヴ語も完璧で、フェンリにとっても姉のような存在だが・・・


「ノイン姉さん、怖いよぅ〜 ユーラより怖いよぅ〜 鬼だよぅ〜」
「そう・・かもな。俺もよく扱かれる」
「うーわー! やっぱおいらにムシクイ語なんてムリムリ!!」
「そんなことないわよぉ〜フェンリくんv」


 タイミングばっちり!といった感じで後ろから声をかけてきたのは、ノインお姉さま


「ノ・・ノイン姉さん!!」


 びっくりするフェンリを他所に、ヴィオルの顔は少し青ざめている


「・・・ノイン。どこから話聞いていた?」
「そうねぇ〜・・・アインちゃんたちにジェスチャーで話すのは大変でしょ〜っていうところ辺りかしら?」


 にーっこりと笑ってはいるが・・・


「ノイン姉さん、目が怖い!」
「だって私、鬼、だそうですから〜」
「・・・ひぃぃー!」


 逃げ出そうとするフェンリの帽子をがしっと掴み、ノインはユーラより怖い笑みを浮かべる


「フェンリくん。さぁ、ムシクイ語の勉強をしましょうか!」
「は・・ははははい!!」


 涙を浮かべ、びしっと固まるフェンリ
 そんな姿を哀れんで見ていたヴィオルにも、ノインはとっても優しーく言う


「貴方もよ、ヴィオル」


 ―――人事では終わらなかった


(2006.01.26)

――――――――――――――――――



「なっ・・・どうして!? どうしておいらが1位じゃないの!?」
「まぁ、当然の結果でしょうね」


 島に響き渡るフェンリの大声を、さも当たり前といったユーラの静かな声が牽制する。

 現在、LHSのトップページに設置されているアンケートで、彼等の人気投票をしているのだが・・・
 当然看板息子である自分が1位だと思っていたフェンリは、その票数を見て信じられないらしい。


「だっておいらは、ここの看板息子で、こんなに可愛くて、愛嬌あって、天才で、最高のケマリなのに!!」
「自信過剰は、時として煙たがられますよ」


 フェンリの横で悠然と笑みを浮かべているのは、現票数1位のユーラ


「LHSのお客様は、見る目が確かだということですね」
「うぅ・・・ユーラずるいよ!!」
「なにがです?」
「女の子がときめくようなことばっかりしてるじゃん!!」


 小さな身体をバタつかせ、見下ろされているユーラの視線に少しでも近づこうと、フェンリはジャンプを繰り返す。


「・・・例えば、どんなことです?」
「えーっと、例えば昨日の日記で脱いだりとか、いつも笑顔で愛想よくしたりとか、綺麗で線の細い男は女性にもてるとか、その黒いところとか・・・」
「最後の方は・・・変えたくても変えられませんね。私の性格ですし、姿は生まれながらのものですから」
「じゃあ最初の方は!?」
「脱いだのは・・・誰かさんが蜂蜜をあんなところに置いたのが原因ですし、笑顔は私のクセです」


 そしてまた、ユーラはにっこりと笑う。


「は・・蜂蜜はごめんなさい。でもでも! おいらショックだー!!」
「ならフェンリも私のようにしてみたらどうです?」
「笑顔で黒くするの?」
「ちょっと言葉にトゲを感じますが、まぁそういうことでしょうね」


 よっしゃ!と気合を入れ、フェンリは顔の筋肉をほぐすため、手でぐにゃぐにゃとこねた。

 そして――――
 腕を広げ、どこか空を仰ぎ見て、フェンリはやや目を細めながら言う


「おいら・・じゃなかった、私にもぜひ票を入れてください・・・フッ」


 あまりにも不似合いで、あまりにも作られすぎたユーラの物まねに
 一緒にいた彼も思わず口を押さえ、笑いをこらえる。


「・・・最後の"フッ"ってなんですか?」
「いや、なんとなく・・・」


 本人は真剣にやったらしい
 どこか満足したような表情が、さらに笑いを呼んだ。


「票、入るといいですね」


 少し肩を震えさせながら言うユーラに、フェンリは満面の笑みで頷く。


「もうこれで完璧でしょ! ユーラには負けないもんね!!」


 果たして、勝負の行方はどうなるのだろうか・・・


(2006.01.31)

――――――――――――――――――



「ねぇ・・ちょっと兄さんさぁ・・・」


 世話のために部屋に入ってきた静稀の姿を確認するなり、フェンリはじとーっと彼を睨む。


「・・・どうかしたか?」
「どうかした?じゃないよ!! なんでアンケートに兄さんの名前もあるわけ!?」
「あぁ・・・なんとなくだ」
「なんとなくって・・・」


 意味があるならまだしも、特に意味もなく載せられた名前
 フェンリは口をポカンと開けたまま、固まった。


「いけなかったか?」
「あ・・当たり前じゃんよ!! 兄さんの名前載せたら、もしかしたら、いやないと思うけど、うん、絶対無いと思うけど、でも・・・」
「なんだ、早く言え」
「えと、おいらより票入るかもしれないじゃん!!」


 天敵ユーラがいるというのに、さらに静稀まで入られては、看板息子としての地位と名誉が危ない。
 フェンリが必死になるのもわかっていたのだが・・・


「まぁ、今のところユーラが1位で、お前が2位なんだから大丈夫だろう」
「そんな・・・兄さんはわかってないよ! 大体管理人の名前をアンケに載せると、多くの票が入るんだって!!」
「だがフェンリ。俺はリヴリーじゃない」
「そんなのわかってるよ!!」
「リヴじゃないから、俺が1位になったとしても2位がお前だったら、リヴの中ではお前が1位ってことになるだろ」


 さらっと言われ、フェンリはハタと動きを止める。


「・・・そういえば、そっか」
「あぁ。俺の事は深く考えなくてもいいと思う」
「そうだね・・・うん。そうだ・・・兄さん、リヴじゃないもんね。そっかー!!」


 単純フェンリ、ここにあり。


「となるとぉー! おいらの敵はユーラだけだ!! よっしゃー打倒ユーラ! まっけないぞぉー」


 それが一番難しいと思うのだが、静稀はあえて何も言わない。


「気合が入ったところで、兄さん放浪行こう!」
「・・・はいはい」


 果たして、更なる勝負の行方は!?


(2006.02.01)

――――――――――――――――――



「ちょっこれ〜と♪ ちょっこれ〜と♪ ちょこれ〜とは〜フェ・ン・リ♪」
「それ・・・なんか違わないか?」
「そうかなぁ?」


 目の前に置かれた巨大なチョコレートケーキを前に、フェンリは上機嫌で歌っている。
 そう、今日は早めのヴァレンタインとフェンリの生誕777日を記念したお祝いパーティなのである。


「さぁ、料理も出来ましたよ」


 お皿に肉やら魚やら、野菜やらムシやら・・・
 ボリューム満点の料理を持ってやってきたユーラに、フェンリの機嫌はさらに上がった。


「あ〜もう、おいら感動ー!」


 並べられていく料理を見ながら、すでにフェンリの頭の中は、どれから食べようかという幸せな悩みに突入している。
 そんな彼を微笑ましく思いながら、ユーラはヴィオルにグラスを手渡す。


「さて、いただきましょう」
「もう我慢できないー!!」


 ユーラの言葉を待ってました!とばかり、フェンリはものすごい勢いで料理に手を伸ばしては口に運ぶ。


「ふまいー!!」
「あまり急いで食べては、喉に詰まらせますよ」


 一方、二人はフェンリの食べっぷりを眺めながら、ゆっくりとお酒を楽しんでいる。


「ユラユラ! ケーキ食べたい!!」
「切れてますから、どうぞ」
「ひゃっほーい」


 見た目、一番大きそうなチョコケーキを取り、さらにフェンリは口の周りをチョコだらけにしながらかぶりついた。


「よくその小さい身体に、それほど料理が入るもんだな」
「ほいはほひは、ぶらっふほーふだほん!」(おいらの胃は、ブラックホールだもん!)
「・・・太るぞ」
「ふぐっ!!」


 思わぬヴィオルの言葉に、フェンリは思いっきり料理を喉に詰まらせたらしい。
 胸を叩きながら、なんかもがいている・・・


「水、飲みますか?」


 顔を真っ赤にしながら頷いている彼に、ユーラは水の入ったコップを渡す。
 受け取った途端、勢いよく飲み干して・・・ようやくフェンリは落ち着いた。


「げふっ・・げほっ・・・あー死ぬかと思ったー!」
「大丈夫ですよ、フェンリはその程度で死ぬほど根性良くないですからね」


 にっこりというユーラ、頷くヴィオル


「なんか・・・おいら貶(けな)された?」
「気のせいです」
「気のせいだ」


 どうも納得いかないが、二人を前にしては何も言えない。
 ちょっと口を膨らませながらも、フェンリはまた目の前の料理を皿に乗せた。


「さて、次は誰のお祝いになるでしょうか」
「んーと、ユーラが777日になるか、おいらが150レベルになるか、ヴィオルが100レベルになるか、だよね」
「そういえば、先ほどヴィネガが、俺も生誕100日だ!って言ってたが・・・」
「お祝い続きで、なんか楽しいですね」


 こうして、今日も一日平和に、リヴ世界は過ぎていく・・・
 おめでとう、フェンリ!


(2006.02.02)

――――――――――――――――――



「きたー!! バレンタインだー!!」


 朝っぱらから、やたら島をグルグルと走り回っているのはフェンリ
 それを呆れて見ているのは、フェンリの島のムシクイたち
 特にツヴァイに至っては、さらに白い目を向けている。


「ちょーっと見てよアイン!」


 赤ムシクイのアインに走り寄り、フェンリはフラワーの呪文を唱える。



 ――――そして
 一面に広がるチョコレート
 レベルの高さが物を言うのだろう、その数は半端じゃない。


「凄くない!? 凄くなーい!?」


 一個摘んでは、口の中にポンっと投げ入れる彼を見て、アインも乾いた笑いをしている。


「アクーツ エアモ オヨリシンエガキーイ!」(つーかお前、いい加減にしろよ!)


 いきなり何かわからない言葉を怒鳴ったのは、いい加減フェンリの態度にキレたツヴァイ


「・・・え? ツヴァイ何て言ったの?」


 とりあえず怒っていることはツヴァイの態度でわかるが、何を言ったかさっぱりなフェンリは、恐る恐るツヴァイに近寄る。


「・・・アクリス!」(・・・知るか!)
「だから、おいらムシクイ語わからないって!」


 ツヴァイ自身もリヴ語を理解していないため、フェンリが正確に何を言っているかはわからないが。
 フェンリの態度を見れば、自分が何を言っているか知りたがっている、ということがすぐにわかる。


「エチオキソティーイ・・・エアモアフ イカグ オヤドゥヌリグ」(いい年こいて・・・お前はガキ過ぎるんだよ)


 やれやれ、と肩を竦めるツヴァイに対し、意味を理解しているアインは彼をなだめている。


「むぅ・・・とにかくツヴァイが何か怒ってるのはわかった。えーっと・・・あ、そうか。ツヴァイもチョコ食べたいんでしょ!!」


 ゴソゴソと、とっておきのチョコを帽子から取出し、フェンリはにっこり笑顔でツヴァイにそれを差し出す。


「どうぞ。これねぇ〜おいらがあとで食べよーって思って、とっておいたやつ。しょうがない、ツヴァイだからあげるよ!」
「・・・ア?」(・・・あぁ?)


 どこをどう解釈したのか・・・
 フェンリの思いっきりな見当違いに、怒りを通り越してツヴァイは呆れた。
 その横で、アインは何か楽しそうに笑っているが・・・


「えと・・・チョコ欲しかったんじゃないの?」


 フェンリの手のひらに乗せられた、可愛いチョコを見ながらツヴァイは大きく息を吐く。


「ウォータギラ」(ありがとう)


 フェンリからチョコを受け取り、ムシクイ特有の姿でツヴァイはもっしゃもっしゃとそれを食べた。
 そんな姿を見て、フェンリも笑顔になる。


「ツヴァイも一緒に食べようよ、アインもね!」


 チョコを指差し、口に入れるマネをして、それから全員を指差すフェンリを見て、アインは大きく頷く。


「フェンリ アグ イノッシュイ ウォイェーバッテ!」(フェンリが一緒に食べようって!)


 ツヴァイの腕を引くアイン
 2匹のムシクイと1匹のリヴによるバレンタインパーティが始まった。


(2006.02.08)

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「何だかさぁ・・・おいら、また強くなったと思うわけよ」


 小さな島の上で思いっきり両手を広げ、どこか自慢げに言う緑のケマリ
 いつもは丸いだけの帽子に、3本の羽がついているのは、飼い主が薬に浸けたからである。


「そこんとこ、どう思う?」


 そのケマリが話しかけている相手は、もちろん飼い主
 しかし、おめでとうの言葉もなく、ほぼ相手にされていないが・・・


「ちょっとぉ〜聞いてるー? おいら強くなったんだってばー!」


 飼い主から返事はない。
 しばらく粘っていたケマリも、さすがにムダとわかったのか、わかりやすいほど口を尖らせ、どこかへ消えていった。

 静かになった島にようやく視線を戻した飼い主は、呆れたため息を一つ残し、部屋を出て行った。






「ったくさぁ〜兄さんひどいよなぁ・・・せーっかくおいらが150レベルっていう区切りのレベルになったのにさー!」


 飼い主に相手されなかったケマリが向かったのは、友人であるムクチョウの島
 子供の扱いが上手いのか、ケマリの様子を見てすぐにどこからかお菓子を取り出し、それを与えていた。


「まぁまぁ。静稀も忙しかったんでしょう。それに、フェンリの言い方が悪かったんじゃないんですか?」
「むぅー・・・そりゃーまーちょっと偉そうに言っちゃったりなんかしちゃったりしたけどぉー!」


 もらったお菓子を口いっぱいに頬張り、どこかバツの悪そうにモゴモゴと口を動かす。


「島に戻ったら素直に言ってみてはどうです? きっと褒めてくれますよ」
「そうかなぁ・・・」
「そういうもんです」


 飲み物代わりに花の蜜を入れた紅茶を受け取り、ケマリはコクコクと飲み干す。


「じゃー・・・素直になってみようかなぁー・・・」
「静稀が世話をしてくれたお陰です。と言ってみれば、彼はちゃんと褒めてくれます」
「でもでもー! おいらの実力ってのもあるしぃー」
「それがダメなんですよ。サポートなしでは強くはなれませんからね」
「・・・はーい」


 緑の羽をペッと上げ、ケマリはパサパサと空へ舞う。


「じゃー帰りまーす!」
「お気をつけて」

 小さな身体全体を動かして、ケマリはお空の彼方へ消えていった。






「ただいま〜」


 自島に戻ってみると、そこに飼い主の姿はない。
 おそらくどこかへ出かけたか、お店にお客が来たのだろう。


「仕方ない。兄さんが戻ったら、今度は素直になってみよう、うん!」


 と言っても、あまり素直になったことのないケマリは、言い方に悩む。
 飼い主が戻るまで、ケマリのちょっと素直になる作戦の練習が続いた。


 果たして飼い主に、おめでとうと言ってもらえたのか・・・
 寝る前の無邪気な笑顔が、その全てを物語っていた。


(2006.02.14)

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「おーーっす!」
「・・・あぁーーーーーーーーーーー!!」


 島に降りてきたその姿を見て、フェンリは思わず叫んだ。


「ディグ兄ぃーーーーーーーーーーーーーー!!」


 小さな身体をさらに丸め、弾丸の如くフェンリはディグライめがけてすっ飛んだ。
 まるで野球のボールを受けるかのように腰を低くし、彼は弾丸フェンリを待ち受ける。



 ―――そして


「ストライーク!!」


 まさに真正面から弾丸フェンリを受け止め、ディグはにぃーっと笑った。


「ふぁ〜・・・ダメだったかぁ・・・」
「まだまだ甘いな、フェンリ!」


 縮めた身体をポン!と膨らませ、フェンリはいそいそと帽子を直す。


「でー! ディグ兄、何の用??」
「そう、それだ。実はなー・・・腹減った」
「ぶっ」


 思わぬ答えに大げさな身振りでずっこけるフェンリ
 まぁ、今に始まった事ではないのだが・・・


「もぅ・・・おいらの島はフード店じゃないんだからねぇー!」
「わーってるって。あ、大量によろしく!」
「食いしん坊のディグ兄には、これで充分でしょ!」


 出されたのは、ウネウネしたもの1つ
 確かにこれ1つで、どんなリヴでも満腹になる。


「マジかよぉー・・・ま、しゃーないな」


 ぱくっと咥えて、ディグは満足そうにお腹を叩いた。





――で、本題だ」
「うん」
「実はなー・・・温泉見つけたんだよ! 温泉!!」
「温泉!?」


 リヴ界には、未だに温泉というものがないと思っていた。
 飼い主に聞いた事があるだけだったフェンリは、身を乗り出してディグを見る。


「温泉って、大きくて温かい水が張ってあって、すっごく気持ちいいものなんだよね!?」
「あぁそうさ。そりゃーもう、すっごい気持ちいいぞ!」
「キャーキャー!! どこよ、どこにあるのよ温泉!!」


 もうすでに浮かれモードのフェンリは、期待の目で輝いている。
 そんなフェンリを見て、どこか得意そうな顔をしているディグは、鼻を軽く擦りながら、フェンリの頭を押さえる。


「まぁ、待て。落ち着け。まずは知り合いを全員呼ぶ事!」
「知り合いって・・・ユーラとか?」
「そうそう。みんなで行くから楽しいんだ、温泉ってのは」
「はーい!」


 心地いい返事の後、フェンリの手から紙飛行機が3枚放たれた。


「よし。じゃ、あとは知り合いを待つだけだな!」
「うっわー! もう、めっちゃ楽しみー!!」

 ―――だがこの後、誰もが予想しない悲劇が起こる事を彼等は知らない・・・


(2006.02.25)

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 見慣れた島
 降り立ったフェンリは、主を探して目線を凝らす。


「・・・あれぇ? 留守なのかなぁ」


 いくら探せど、探している主の姿は見えない。


「仕方ない・・・出直そっと」


 ポンとケマリに戻って、自島へ戻ろうとしたその時―――


「フェンリ! こっちだこっちー!」


 聞きなれた声が耳に飛び込み、フェンリは声の方に顔を向けた。
 細い木の上、うつ伏せに枝の上で横たわっているのは、今探していた人物の姿で・・・


「ディグ兄・・・なんで木の上なんかにいるの!?」
「ん? 俺の昼寝場所ってやつ〜」
「犬も木に登れたんだ!」


 よっ・・と、木から飛び降り、フェンリの前に着地したディグライは、にっと笑い、フェンリの頭をぽふぽふと叩く。


「ブタも煽てりゃ木に登る!」
「・・・それ何か違うって!」


 再びヒトの姿になり、フェンリは彼と向き合うように座った。


「っと、話の前にまずは腹ごしらえな。寝てたら腹減った」
「起きてても寝ててもディグ兄はいつもお腹空いてるじゃーん」
「食事は命! お前もしっかり食わないとでっかくなれないぞ」
「わかってまーす」


 そういうフェンリもお腹が空いたらしい。
 小さな身体に、小さな音が響く。


「・・・おいらもここで食事しよっと」
「食え食え」


 ゴソゴソと帽子を漁り取り出したのは、真っ白のフヨフヨしたもの。


「フェンリ・・・そんなものばっかり食ってるからでっかくなれないんだよ」
「だっておいら、これが大好物なんだもん」
「たまにはコレとか食ってみ?」


 言われて目の前に出されたのは、ブタの形のフウセン


「ぎゃー! おいらコレ大嫌いー!!」
「好き嫌いは許しません!」
「やーーだーーーーーーー!!」


 フェンリを上から押さえ込み、ディグライはフウセンを口に放り込もうとする。
 いくら暴れても体格差がはっきりしているため、フェンリは彼から逃れる事ができない。


「おいら泣くよ!?」
「うっ・・・」


 暴れても助からないと理解したフェンリは、泣き脅しの手に出る。
 実際、すでに半泣きだから、今更という気もするが・・・
 それでも充分に効果はあった。


「ちぇっ! わかったよ」


 フェンリの上から降り、ディグライはフウセンを島の隅の方に投げ捨てる。
 それを待っていたかのようにムシクイががっついていたが、それは見ないことにして・・・


「んで、そういや何しに来たんだ?」
「遊びに。ダメ?」
「いや・・・別にいいけどよ・・・」


 さっきとはうって変わって笑顔で、ケセパを頬張るフェンリの顔に涙はもうない。


「でもね、ディグ兄いじめるから、おいらの貞操のために帰る」
「・・・ちょっと待て! 貞操って何だ、貞操って!!」
「ユラに習った。身の危険を感じた時は、貞操を守るために逃げろって」


 ディグライの脳裏に、にっこりと微笑む悪魔の姿が浮かぶ。


「フェンリ、その言葉あまり使わない方がいい。絶対間違ってるから!」
「そうなん?」
「当たり前だー!!」
「むぅ・・・おいら難しい事わかんないもん」


 ご飯を食べ終わったフェンリは、その場に立ち上がり膝をパンパンと叩いて土を落とす。


「じゃあ貞操って何?」
「それは・・・えーっと、よし、そうだ。ヴィオルに聞け! うん、それがいい!!」
「ヴィオル? ヴィオルなら教えてくれる?」
「たぶん・・・」


 確証はない。
 というより、責任の押し付けでもある。
 視線をあらぬ方へ泳がすディグライを不審に思いながらも、フェンリはケマリに戻る。


「早速ヴィオルのとこ行ってみる!」
「お・・おう! 行って来い!!」


 宙へと舞い上がり、掻き消えた姿を見て、ディグライは複雑なため息を吐いたのだった―――――


(2006.02.28)

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